隣の席の室井くん①



薄暗いステージ裏らしき狭い通路を、人を避けながらなんとか通る。

時折、後ろを確認するように振り返る赤髪くんは



「アンタ、SnakeFootのメンバーの彼女かなんか?」



と、頭を傾げながら立ち止まった。



「はへ!?いやいや!!違います!!そんなんじゃないです!!」

「そーなの?」

「そーです!!」



あのメンバーの中で唯一知ってるのは相沢くんくらいだし、その相沢くんだってただの協力者だ。



「えー?じゃあなんで控え室に入れんの?」

「え?」

「SnakeFootは、滅多に自分たちの控え室に人なんか入れないよ?」



え?そうなの?



「いや、なんでと聞かれても…」



そもそも、控え室にくれば室井くんに会えるって言われたからアタシは今こうして向かってるわけで


「あの、室井くんって人わかります?」

「室井?」

「はい、あの~…なんかこう、眼鏡で黒髪で前髪がキタローみたいに長くて、陰気な感じの」

「ん~…。バンドマンってそういう感じのヤツ多いし、見たことある気もするけど、よくわかんねぇなぁ」



え、バンドマンの中じゃ流行ってるの?
あの髪型。

オタク系とかじゃなくて?

…なんか、このままついて行っても本当に会えるか怪しくなってきたぞ?だって、結局このライブハウスで室井くんらしき人物に全く遭遇しないし。


それに、あんだけ人混み嫌い〜とか、騒がしいとこも苦手〜とか言ってた室井くんが、やっぱりどう考えてもこんな所に来ると思えない。想像つかない。




「こん中にいるよ」




そう言って赤髪くんが立ち止まったのは
小さなスタジオらしき一室の前。


どうやらこのライブハウスの中には、小さなスタジオが何部屋か設置されているようで、そこを控え室として使用しているらしい。



「じゃ、俺はここで」

「え、え!?」



無事に任務を完了すると、赤髪くんはそそくさと立ち去ってしまった。


アタシはポツンと、重そうな扉の前に置き去り状態。



…え、どうしたらいいわけ?
この中に相沢くんがいるのは分かったけど
室井くんも…いるらしいけど

他のメンバーの方もいらっしゃるのよね?


どういうテンションでアタシはこの重い扉を開けばいいわけ?


しばらく悶々と考え、扉の前で手を出したり引っ込めたりしていると



――ギィ


扉が重そうな音を立て目の前で開いた。