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ーーライブ当日の、とある日曜日。
朝から散々服装に迷った挙げ句、
ライブに行くんだからと、結局当たり障りのないよう動き易い服装を選んだ。
本当に室井くんに会えるかどうかはわからないけど万が一会えた時のために恥ずかしくない精一杯の格好を選んだつもりだ。
「あれ?純、出掛けんの?」
玄関で靴を履いていると、寝起きなのかボサボサ頭の4つ上の大学生の兄貴が洗面所から顔を出した。
「あーうん。ちょっと友達のライブに」
…友達…でいいんだよね?
同盟組んだ仲だもんね。
「ライブ?誰の?」
音楽好きで、よくライブにも行く兄貴なら知ってるのかな。
いやいや、でも高校生がやってるようなアマチュアバンドだしな。そう思いつつも、アタシはチケットを兄貴に見せる。
「ん?あ!!コレ、SnakeFootが出るヤツじゃん!!」
「え?知ってるの兄貴」
チケットを受け取った兄貴は目を輝かせてそれを眺めながら続ける。
「知ってる知ってる!!ここらじゃ割と有名なんだよコイツら」
そんな兄貴の言葉に、今度はアタシが目を丸くする。
へぇ。相沢くんて何気に、もしかして凄いのね。
「うっわ〜、い~なぁ!!なんでお前がこんなん持ってんの!!?」
「このSnake Footってバンドのギターの人が同じ高校なんだよ」
「マジで!!?相沢だろ?相沢っつったら、そこらの大学生とか社会人よかギター上手いってかなり評判なヤツだぜ!!?なんだよ知り合いかよお前」
「いや…知り合いって言ってもまだ日は浅いんだけど…」
それより兄貴、着替えなよ。
もうすぐ昼だよ。
しかし兄貴は更に食いついてくる。
「SnakeFootって、マイナークラウンのコピー曲よくやるんだけど、マイナークラウンの曲ってかなりコードが複雑で難しいの多いだろ?それコピーするなんてよっぽど腕なきゃ出来ねぇよ」
「へぇ」
だろ?って言われても楽器が弾けないアタシに分かるワケがない。そういう兄貴も楽器なんか弾けないけれど、知識だけはあるうんちく野郎だ。
その兄貴が言うんだから、きっと中々凄いことなんじゃないか?
ただの金髪笑い上戸ではないのね相沢くん。
ギタリストな笑い上戸だったのね。
「あとなんつってもこのバンドのボーカルがなぁ、すんげぇいいんだよ!!」
「わかったわかった!!帰ってきたらまた聞くから!!」
兄貴の話に付き合ってたらライブが始まってしまう。
キリがないので、兄貴の言葉を遮りながらも靴を履いた。
「んだよ~い~なぁ」
そんな兄貴の羨まし気な声を背後に、アタシはそそくさと家を出た。
室井くん目当てで今日を迎えたけど
これは、相沢くんのバンドにもなかなか期待が出来そうだ。
