隣の席の室井くん①



あまりにも教室に響いたその引き笑いに
アタシも、室井くんも目を丸くして固まった。



「ヒーヒー!!もうダメだ!!耐えらんねぇや!!ヒャーーッッ!!うひひ、うける!マジうける!!」



…大丈夫ですかこの人。

言葉の端々にヒャーッという奇声を織り交ぜながら笑い転げる相沢くんを、半ば白い目で凝視するアタシとは違って



「亮介、うるさい」



と、慣れている様子の彼は、動じることもなく手にしていたノートを笑い転げる相沢くんに投げつけた。

それを難なくキャッチすると



「だ、だって!!お前、わっかりやすすぎんだって!!」



ヒーヒー言いながら、尚も腹を抱える相沢くん。

全く意味が分からず固まるアタシの横で
室井くんが、その白い肌を赤く染めて



「…死ねばいいのに」



と、室井くんらしからぬ発言をした。

…室井くん、キャラが違うっす。



「大丈夫だって~!お前が来るまで本当に日吉チャンと世間話してただけだって!!手なんか出さねぇから安心しろよ」

「もういいから黙ってよ」



溜息交じりにそう零し、プイッと顔を背けた室井くんは



「日吉さん」



と、今度はアタシに向き直った。



「亮介に近付いたらだめだよ。妊娠しちゃう」

「に…妊娠」

「おいッ!!翔!!失礼だな!!」

「事実だもん」



いつになくよく喋る室井くんは、スタスタと自分の席まで行き鞄を手に取ると



「亮介、早く。今日行くんでしょ」



と、平然とした様子でドアの所で振り返る。
それに、慌てたように鞄とギターケースを引っ掴むと



「おっ前を待ってたんだろーがよ!!」



と言いながら、相沢くんが後を追った。



「また明日ね、日吉さん」



と、口元を綺麗に上げた室井くんはスタスタと教室を出て行く。



「あ、また明日」



アタシの声に被せて



「待てって!!」



と、相沢くんが叫んだ。



「あ、日吉チャン、日曜日ヨロシクね~」



そう言い残した相沢くんは賑やかに室井くんの後を追って去って行った。