隣の席の室井くん①



学生服のズボンを膝まで捲り、胸元をはだけ
”あち~あち~”と下敷きで仰ぐむさ苦しい男子とは違い


---窓際で俯き読書に耽る少年。


肩につきそうなくらいに長い髪の毛が顔を覆い隠し、その合間からは黒ブチの眼鏡が覗いている。



「室井くんは、一人涼しそうだねぇ・・・」



机に突っ伏しながら汗一つかかずに白い肌を晒すその少年に向けて、思わず漏らしたアタシの言葉に

手にしていた本から視線を上げた彼は



「うん?暑いよ?」



と、これまた涼しげな顔を傾げて控えめに笑った。


っていうか、涼し気なのはその白い肌であって彼の髪型は非常に暑苦しいのだけれども。


長めの前髪が目にかかりそれだけでも暑苦しいのに、当の本人は至ってそんなそぶりは見せない。


てか、見てるこっちが暑いわ。



一言、会話を終えると彼はまた静かに本に視線を落とした。



「あんな鬱陶しい風貌して汗一つ掻かないなんてやっぱ謎ね、室井は」



さっちゃんが訝しげな表情でポツリと呟き、アタシもそれに無言で頷く。



隣の席の 室井(むろい) (かける)くんは
2年になってから同じクラスになったクラスメートである。



同じクラスになってから約3ヶ月。
あまり接点はないものの、彼は謎である。

謎、というよりも 不思議、なのである。


さっきも言ったように絵に描いたようなオタク男子な風貌な上、いつも難しげな本を読んでいて、あまり喋っているところを見たことがない。


読書家で眼鏡キャラとかどんだけ頭がいいのかと思うが、これまたかけ算もままならないレベルで、テストではいつも赤点組だ。


あまり喋っているところを見たことがない彼だが
たまに発する発言も彼は謎めいている。



以前、授業中に窓の外をボケ~っと眺めていたことがあり



「さっき何見てたの?」



と問えば



「ん~?・・・なんか、雲の上ってほんとにラピュ◯の城ってあるのかなぁって思って」



とか言っちゃうメルヘン気味な思考の持ち主だし



「もやしっ子よね、室井は」

「確かに白いし、細いね室井氏は」



窓の外からサンサンと降り注ぐ太陽なんかに照らされたら溶けて消えてなくなるんじゃなかろーかってくらいに、そこらの女の子より華奢である。