季節は夏。7月上旬。
「あ~・・・・・・暑い・・・・・・」
「純・・・スカート」
「スカートがなんだね、さっちゃん」
「パンツ見えるっつーの」
「この暑さに比べたらパンツの1枚や2枚なんて」
「・・・少しは女らしくしなさいよアンタは・・・」
「・・・すみませんね」
2年E組の教室に、女にあるまじき女がここに1名。
日吉 純 花の高校2年生。
青春真っ盛りの一応生物学上は”女”である。
日も頂点に達する昼休み。
何度も言うが季節は7月上旬である。
「あっつい~、あっついよ~死ぬ~・・・」
「暑い暑い言わないで。余計暑くなる」
机に突っ伏し、足を広げた状態で、片手でYシャツをパタパタと仰ぐ。そんなものは気休めにもならないことくらい分かっているがやらずにはいられないのだ。
そんなアタシの目の前で同じくダウン寸前の少女。
「さっちゃん、谷間が見える」
「アンタの色気のないパンツよりは男子の目の保養に一役買ってるわよ」
そりゃそーだ。アタシの色気のないパンツより、
男子諸君は谷間を見たいだろーよ。
セクシー隊長、またの名を 松坂 咲智
緩いウェ-ブのかかった長い髪の毛を肩の位置で一つに括り、さらりと彼女は言い放つ。
「いやいや、パンツではないのだよ。ほれ」
「どっちでもいいわよ、そんなん。見せんな」
確かに最早どっちでもいい。
この暑さを前にしたらパンツだろーが、谷間だろーが、暑さが少しでも凌げればなんでもいい。
こう聞くと、まるでアタシ達だけが暑さでグダグダしているように聞こえるかもしれないが
教室を見渡してみればアタシ達と何ら変わりないグダグダしたクラスメート達が、あちこちで屍のようにダウンしている。
「この暑さ、どう考えても空調死んでるでしょ・・・」
さっちゃんが殺意を抱いた目つきで呟く。
「数日前から怪しかったけどついに壊れたのかね・・・」
そう。数日前から、教室のエアコンが変な音を発していたり、温度がいつになっても下がらなかったりで怪しかったのだが
今日はついにその役目を果たせていない様子からして、恐らくこれは・・・
「・・・・・・死ぬね、こりゃ」
そう、故障である。
こうなったら最早、授業もクソもない。
命の危機である。
ぐったりと机に突っ伏すアタシと打って変わって、汗ばむ姿ですらセクシーな目の前のさっちゃんは
「この光景見てるだけで暑さが増すわね」
と吐き捨てる。
「間違いないね」
そう同調しながら、教室を見渡せばまるで打ち上げられた魚のようなクラスメートの姿。その光景がさらに教室の温度を上げるような気すらする。
「なんかこう、見てるだけで涼しくなれるようなモンはないかしらね」
「そんなモンあったら特許モンですよ」
と言いつつも思わず教室を再びグルリと見渡す。
もはや、死屍累々である。
一回り教室を見渡したあとふと、隣の席の少年に目が留まる。
「・・・暑くないんかな」
その視線に気づいたさっちゃんが
「あぁ・・・室井ねぇ」
と興味なさそうに呟いた。