鞄から筆記用具を取り出しながら室井くんは、のんびりと欠伸をする。
数日前に故障した教室のエアコンはその後修理されたようで、今では教室内は心地よい温度を保っている。
…にも関わらず、アタシの体温は相変わらず上昇の一途を辿る一方である。
それに反するかのように、目の前のこの色白な少年は相変わらず涼し気で、彼の周りだけ爽やかな風が吹いているかのようだ。
「髪の毛、暑くないの?」
なるべく平常心を装いながら更に会話を試みてみる。
「ん~?暑いよ」
ゆっくりと返事をする室井くんに
なら、切るか避けるかすればいいのに…
…と、誰もが突っ込みたくなると思うが
なんとなくそこは口にはせずに留めてみた。
「あ、日吉さん」
室井くんが窓の外を見つめながら手を止める。
「向日葵、萎れてる」
「え!!うそ!?」
慌てて窓際に近付き見遣った先では
花壇に並ぶミニ向日葵が暑さのせいかしんなりとうなだれていた。
「あ~ほんとだ…。昨日も帰りに水あげたんだけどな」
この猛暑にやられているのは人間だけじゃないらしい。いくら夏の花とはいえ、そりゃツライよね
この暑さは。
「俺、授業終わったら水あげにいくよ」
「え?」
思わず、室井くんを見ると
彼は、髪の毛と黒ブチ眼鏡で半分隠れた顔で綺麗に笑みを作り
「…秘密なんでしょ?日吉さんがアレの世話してるの」
と、小声で言った。
