隣の席の室井くん①



鞄から筆記用具を取り出しながら室井くんは、のんびりと欠伸をする。


数日前に故障した教室のエアコンはその後修理されたようで、今では教室内は心地よい温度を保っている。

…にも関わらず、アタシの体温は相変わらず上昇の一途を辿る一方である。


それに反するかのように、目の前のこの色白な少年は相変わらず涼し気で、彼の周りだけ爽やかな風が吹いているかのようだ。



「髪の毛、暑くないの?」



なるべく平常心を装いながら更に会話を試みてみる。



「ん~?暑いよ」



ゆっくりと返事をする室井くんに

なら、切るか避けるかすればいいのに…
…と、誰もが突っ込みたくなると思うが
なんとなくそこは口にはせずに留めてみた。



「あ、日吉さん」



室井くんが窓の外を見つめながら手を止める。



「向日葵、萎れてる」

「え!!うそ!?」



慌てて窓際に近付き見遣った先では
花壇に並ぶミニ向日葵が暑さのせいかしんなりとうなだれていた。




「あ~ほんとだ…。昨日も帰りに水あげたんだけどな」



この猛暑にやられているのは人間だけじゃないらしい。いくら夏の花とはいえ、そりゃツライよね
この暑さは。



「俺、授業終わったら水あげにいくよ」

「え?」



思わず、室井くんを見ると


彼は、髪の毛と黒ブチ眼鏡で半分隠れた顔で綺麗に笑みを作り



「…秘密なんでしょ?日吉さんがアレの世話してるの」



と、小声で言った。