隣の席の室井くん①





無意識のうちに目の前の停止したままのミシンを触る。その白い機体に指を滑らせれば、思いの外するりと指先が滑り、広げられた布にたどり着く。



「アタシは、室井くんがどんな風に空を見て、どんな青が見えてるのか知りたいよ」


耳元で、室井くんが鳴らしたポロンというギターの音が聞こえた。


まるで、返事をするように。



「室井くんがどんな物を見て感じるのか、アタシには全部はわからないかもしれないけど、教えてくれたら嬉しいよ」



納まりかけていたモヤモヤが、また胸の中に広がる。


さっき観た、動画サイトの室井くん。


スポットライトを浴びて
歓声を受けて
高らかに唄う室井くんの姿が、脳裏に浮かぶ。


どこか、遠くに…

アタシなんかが手の届かないところに行ってしまいそうな、そんな感覚にアタシはぎゅっと目をつぶった。



黙ったままの室井くんは言葉の変わりに、その手にしているギターで音を紡ぐ。


ポロン、ポロロン



少しずつ、さっきよりも


鮮明に



まるで一つの歌を唄うように



ギターが音を奏でる。





しばらく黙ったままだった室井くんが


『日吉さん』


ようやく言葉を発した。



アタシは閉じていた目を開け、携帯越しの室井くんの微かな息遣いですら聞き逃さないように耳を澄ます。



『俺ね、日吉さんと出会って色んな発見したって言ったでしょう?』

「・・・うん」

『また一個発見したよ』



何が可笑しいのか
耳元で室井くんがクスクスと笑う。



『俺、日吉さんには伝えたいって思うこといっぱいあるみたい』




・・・みたいって。

みたいってなんだよ。




『そっか……そっかぁ~』




何かを悟ったように明るい調子で笑う室井くんは、
電話の向こうでジャカジャカとさっきまでとは違う音を鳴らす。


嬉しそうに、楽しそうに
ギターを鳴らす。



「な、なにが¨そっか¨なの?」



訳が分からなくて頭を傾げるアタシに


『うん、ありがとう』


また訳のわからない返事をする。



え?え?え?


なにが¨ありがとう¨?



なんでアタシ今
お礼言われたのだろうか。



あははと笑いながらギターを鳴らす室井くんは
差し詰め、相沢くん状態だ。


室井くんのそんな姿、想像つかないけども
電話の向こうの室井くんは明らかに楽しそうで

そのギターの音も弾んで聞こえる。



『日吉さん』

「はい」



頭に疑問符イッパイのアタシはとりあえず返事をする。

最早、ミシンも、縫いかけの衣装も
全くの放置だ。放置プレーだ。



いや、最早もういい。
こんなもん、兄貴に縫わせよう。
前に母さんが大事にしていたマグカップを割ったことをチラつかせながら脅そう。



そんなことを密かに決心したアタシの耳に



『やっぱり、すごく会いたい。会って日吉さんに触りたい』

「・・・っっ!!」


そんな甘く低い
今日1番のとろけるような声が届いた。