『やなぎんは、いつも具体的なイメージ言ってくれるから、そのまま思いつくままにって感じ』
「なんか、やなぎんて凄いんだね」
『うん、やなぎんは凄いよ』
何故か室井くんが得意げに笑ったように思えて、
アタシも笑う。
『亮介は・・・なんかいつもはちゃめちゃ。亮介の頭の中みたいな感じ』
「ヒャヒャヒャな感じ?」
『そう、そんな感じ』
わ~・・・。
なんかそれ困る。
『亮介の曲が1番歌詞つけるの嫌』
あ、やっぱり。
正反対と言っても過言ではない二人のイメージが一致するハズがないわな。
そりゃ苦戦するでしょうね。
「でも凄いね~、アタシには無理だもん」
曲に歌詞をつけるなんて荒業、文才のないアタシには不可能だ。
『俺も苦手だよ』
そう言った室井くんはまた一つ、
ポロンとギターを鳴らす。
『俺の言葉は、具体的じゃないんだって』
「具体的?」
『うん、亮介に言われた』
…具体的じゃないってどういう意味だろう。
『あんまり、ハッキリした表現使うの好きじゃないんだ』
いつも真っすぐストレートな室井くんが?
電話越しに奏でるギターの音が、心なしかテンポダウンする。
室井くんが弾いてるのはアコースティックギターらしく、時折それ特有の弦が擦れるような音が鼓膜に届く。
『例えばね?俺が見てる空が青いからといって、他の人が見てる¨青¨がそれと同じとは限らないと思うんだ』
「あ、青・・・?」
なにやら複雑なことを言い出す室井くんの言葉に
お馬鹿なアタシの頭上にはハテナマークが浮かぶ。
『人それぞれ見え方も感じ方も違うから。俺には深い青に見えても、ある人からは淡い青に見えてるのかもしれない』
ゆっくりとしたテンポで話す室井くんの声は、
まるで唄っているようだ。
『だから、俺は、空の色を単純に¨青い¨とは言いたくないんだ』
・・・なんだか
わかるようで、わからない。
単純に、「空が青いね」と言って
「うん、青いね」と答えるという話ではないのだろうか。
室井くんには
違う何かに見えてるんだろうか。
「でもさ、それじゃ伝えたい相手に伝わらない時もある・・・よね?」
なんとなく。そう思って、
なんとなく、そう口にする。
それに、室井くんはくすくすと笑い
『誰かと共有したいと思ったことがないんだ』
と、悲しいことをサラリといつもの調子で口にした。
『誰かに、自分の何かを分かって欲しいって思ったこともあんまりない』
「・・・」
・・・なんだろう。
なんでもないことのように室井くんは言うけど
それって寂しいことじゃないか?
誰かに何かを伝えて、分かって貰って、
分かり合って、そうやって色々築いていくのに、
室井くんは
そうしたいとは思わないの?
携帯を耳に押し当てる手に思わず、ぎゅっと力が入る。
『日吉さん?』
「・・・」
そんなこと言わないでよ。
そんな悲しいこと。
そうやって、室井くんは
今まで人と関わることを避けてきたの?
長い前髪と、黒ブチの眼鏡でその表情だけじゃなくて他にも隠してきたの?
そんなの・・・
「室井くん」
『ん?』
喉から、振り絞ったような掠れた声が出た。
アタシが知ってるのはいつも真っすぐでストレートな室井くん。
ふわふわニコニコしながら、気持ちをまっすぐ向けてくれるじゃない。
「アタシは、知りたいって思うよ」
『うん?』
室井くんが、疑問符の付いた頷きを携帯の向こうから発する。
