携帯片手に真っ赤になるアタシは、どうしたって室井くんに勝てやしない。
「室井くん、」
『はい』
「卑怯です」
『うん?』
「このタイミングで、その返しは、卑怯です」
『あはは』
あはは、じゃないよ
コノヤロウ。
勇気を振り絞って、たまに素直になってみても
それ以上にストレートな室井くんにいつも返り討ちにあってしまう。
『でもね、日吉さんの声が聞きたかったのはほんと』
柔らかい、高くもなく、低くもない室井くんの声が心地よく響く。
その後ろで、
ポロン、
とギターの音が聞こえる。
「室井くん、ギター弾いてるの?」
思わず、問い掛ける。
『うん』
室井くんの声の向こうで
また、ポロン、ポロロンと頼りなさげなギターの音が聞こえた。
『亮介がね、文化祭のバンドの件諦める変わりに、SnakeFoot用に曲を一曲作れって言うんだ』
完全にトーンダウンした室井くんの声からして
かなり乗り気じゃないらしい。
「曲なんて作れるの!!?」
『作れないよ』
即答ですね。はい。
『頭の中で鳴ってる音はあるんだけど、それを形にしろって言われると難しい・・・』
「…イメージと現実って中々直結しないよね」
アタシも正に今、その状況だ。
頭の中ではね~ミシンだってへのかっぱなのよね。
華麗にミシンを操って
衣装だろーがドレスだろーが、なんだろーがきやがれみたいな。
・・・あくまで脳内ではね。
それを実際やってみろって言われると無理だけどね。
目の前のミシンと縫いかけの白い布をじっとりと睨みながら、アタシも同じくため息をついてみた。
『日吉さんも?』
「そう、アタシの相手はギターじゃなくてミシンだけどね」
いや、仮にもバンドをやってる人と一緒にすんなって話ですけどね。
アタシにとっちゃ死活問題なのだ。
これを作りあげないと
あの恐怖のセクシー隊長にシバかれる。
いや、サバかれる。
「でもさ、それを承諾しちゃうくらい、文化祭のバンドの件嫌だったの?」
『うん、嫌』
「そっか」
即答の室井くんに何故かアタシは、ほっとする。
なんでだろう。
なんでほっとするんだろう。
ただ、これ以上室井くんが誰かの目に触れるのが嫌だというただの独占欲なのだろうか。
そんな単純な話なのだろうか。
「曲ってどうやって作るの?」
再び湧いてきたモヤモヤを打ち消すように、アタシは携帯の向こうの室井くんに向かって言葉を発する。
