隣の席の室井くん①



非難ゴーゴーなアタシの視線をうけつつ、兄貴は器用にミシンに糸を張り巡らせていく。

アタシがあんなにも苦戦した行程をあっという間にこなすと、


「これ、縫えばいいんだろ?」


と言いつつ、ガガガという音と共に白い布に針を滑らせていく。



畜生め。
この兄貴は頭がいいだけじゃなく手先の器用さもアタシの上を行くから尚腹立たしい。



アタシの代わりに衣装を着々と縫い上げて行きながらも


「お前全くわかってねぇなぁ」



とぼやいた。



「彼女失格だぞ~?」

「なにが」



アタシのぶっきらぼうな言葉に兄貴がちらりと視線を上げる。


アタシなら視線を反らした時点で恐らくまた袖口を一緒に縫ってしまうだろうさ。


「SnakeFootってマジで今すげぇんだぞ?」


珍しく真面目なトーンで兄貴が言う。


「今のご時世、バンドってそんなにメジャーじゃねぇし、それに都会ならまだしもこんな田舎じゃ活動するっつったって限界があんだろ?」



兄貴の言葉を黙って聞くアタシは、どんどん縫われていく布に視線を向けたまま次の言葉を待つ。



「けど、今はネットっつーのがあるわけだ。簡単に投稿出来る掲示板形式の」



あぁ、
YourTubeとかワクワク動画とかね。


ネットや機械は全くの無知で携わったことのないアタシには全然わからないけれども。


「ライブ観に行った奴とかがそういうのに載せて、それが口コミで広まって、今閲覧者数とか結構すげぇんだぜ?」

「そうなの?」



ようやく顔を上げたアタシに兄貴は視線を合わせる。



「SnakeFootは演奏もアマチュアにしてはズバ抜けていいし、それに何よりあのルックスだろ?そりゃ食いつくだろ」

「・・・」



まさかそんなにも有名だったとは。

この辺じゃ割と有名なバンドだっていうのは最近知ったけども、こんな都会とも形容出来ないような土地のアマチュアバンドが、そんなにも有名だなんて思わないでしょ、普通。



「ま、うかうかしてっとあっという間に室井くんさらわれちまうぞ~?」

「さらわれるって・・・」

「いや、¨ショウ¨の時ならまだしも室井くん、な~んかフワフワっとしてんじゃん?お菓子あげるよ~とか言ったら簡単について行っちゃいそうじゃん?」



室井くんは幼稚園児かっつーの。


てか、今時幼稚園児ですらもうちょっと警戒心持ってるよ。



ガガガという機械音がピタリと止んだかと思うと


「あ~疲れた」


と肩をポキポキ鳴らしながら兄貴が立ち上がる。


「ま、せいぜい捨てられないように頑張るんだな」

「ちょっと!!縁起でもないこと言わないでくんないかね!!」

「お前が室井くんにフラれても俺は室井くんとマブダチだけどな~!!」



ハッハッハ~!!と軽快に笑いながら、兄貴は部屋から出て行った。



・・・縫いかけの衣装と、不吉な言葉を残して。


なんて厄介な兄貴なんだ。