室井くんがすやすや眠っている間に、セクシー隊長がキビキビと取り仕切りあっという間にそれぞれの分担が決まっていった。
さっちゃんの怒りに触れた室井くんに、どんな罰を与えるのかとヒヤヒヤしたが
なんとも無難な呼び込み班。
でも確かに室井くんがお化け役をノリノリでこなすとは思えない。
いや。むしろ、こんだけ色白で、前髪垂れ下ろしてたら素でお化け役をやれるかもしれない。
って、いやいや。失礼だろアタシ。
とにかく。さすがにさっちゃんもその辺は考慮してくれたのかな。と心なしかホッとしたのである。
「なんだよ~、パ~ッと派手にお化け役とかだったら面白れぇのによ~」
「意味がわかんないよ」
室井くんはそうサラッと流すと再び本に視線を落とした。
室井くん・・・そんなにその本面白いですか。
丁度文化祭の出し物とも内容がマッチしちゃってるしね。
意外とやる気ですか。
・・・いや、そんなことはないだろうね。
本のページをめくりながら時折、「わーすごいー」と呑気に感嘆の声を漏らす室井くんからは、文化祭への意気込みは一切感じ取ることは出来ない。
「でもよ~、お前出来んの?呼び込みなんて大声張らなきゃなんねぇじゃん?お前素の状態で声張れんの!!?」
ヒャヒャヒャと高笑いする相沢くんの言葉に思わず
・・・確かに。と、室井くんを見てしまう。
室井くんが
「お化け屋敷はこちらでぇぇぇす!!砂かけ婆に、お岩さん、なんでも揃ってますよ~!!」
・・・なんて、大声で呼び込みする姿なんて想像も出来ない・・・
ちらり、と室井くんを見れば
「・・・うん?」
と、何やらよくわかんない表情。
ダメだ。
もしかしたらこの人
呼び込み役の役割をよく理解していないかもしれない。
看板持って練り歩けばいいくらいにしか思ってないかもしれない。
いや、本来ならそうなのかもしれないが
なんせ隊長があのさっちゃんですよ?
そんな生温い呼び込みを彼女が許すはずがない。
ーーーはっ!!
まさか、さっちゃん、
これも全て計算の上で室井くんを呼び込み班に!!?
なんて恐ろしい娘・・・。
「ところで相沢くんのクラスは何やんの?」
ヒャヒャヒャヒャ笑い続ける相沢くんに視線を向ける。
本当この人笑い上戸だよね。一回笑い出すと下手したら一生笑い続けそうだよね。もういっそ前世は笑い袋でした〜とかじゃなきゃ辻褄合わないくらい笑うよね。
涙を浮かべながら笑いを堪えた相沢くんは
「あ~ウチは普通にクラス劇。なんか眠れぬ森の美女の男女逆転劇やるらしいよ~」
と、けろりと答える。
「へぇ、男女逆転劇とか面白そう」
目立ちたがりでいかにもお祭り男なカンジの相沢くんとかノリノリで参加しそう。
そんなアタシの期待とは裏腹に
「ま、俺は1番楽な雑用係だけどね~」
再び椅子に背を預け、キィキィ鳴らしながら踏ん反り返る相沢くんに、アタシは目を見開く。
「え!!?相沢くん出ないの!!?相沢くんのことだから主役とかやっちゃうんじゃないの!!?」
「ヒャヒャヒャ!!日吉チャン俺にどんなイメージ持ってんの!!」
だって!!
いかにもじゃん!!
超食いつきそうじゃん!!
てか相沢くん、絶対美女役とかはまり役だと思うよ!!
ドレス似合うと思うよ。
「いや、俺はバンドの練習もあるしよ~色々忙しいんだよね~」
ーーあぁなるほど。
どうやらSnakeFootは10月にライブを控えてるらしく今はその練習で忙しいらしい。
そのおかげで、アタシも夏休み中満足に室井くんと会えなかったのだ。
仕方ないんだけどね。
ライブも楽しみだし。
「ま、バンドの練習はそこまでじゃねんだけど~」
相沢くんはそう言うと
意味ありげに室井くんに視線を向ける。
