ーーチャイムが鳴り
それぞれが席につくと、教壇の前にこんがり色したさっちゃんと、気の弱そうな田中くんが並んで立つ。
短くすっきりと整えられた黒髪に、きっちりと着こなされた制服。そんな田中くんは頭がいい。そして非常に真面目である。
しかし真面目であるが、とても気が弱い。
ちなみに室井くんの前の席で、
いつも休み時間の度に相沢くんに席を乗っ取られアワアワしている可哀相な男子だ。
頭がいいからという理由でクラス委員もやっている田中くんだが、気が弱すぎるが故いつも「あの・・・えぇと・・・」だけで軽く15分は時間を潰す。
「じゃあ、学祭の出し物だけど、なんかやりたいのあったらバンバン出していって」
打って変わって、男前に仕切っていくさっちゃん。
その横でチョークを手にした田中くん。
どうやら今日は、彼の役目は黒板係らしい。
「え~、面倒くせぇ」
「なんか適当でよくね?」
ざわざわと教室から上がる不満の声に、さっちゃんの目がキラリと光る。
バンっっ!!!!という教壇を叩く音に、騒いでいた男子が一気に口を紡ぐ。
それをゆらり、と一瞥したさっちゃんがゆっくりと口を開いた。
「あのねぇ、面倒なのは皆同じなのよ。っていうか、誰が1番面倒だと思う?私よ私。大体ね、気弱な委員長の隣の席ってだけで実行委員にされた私の気持ちがわかる?頭がいいって理由だけで委員長にされた上、実行委員にまでされた田中も哀れだけど、そんな田中を助けてやれとか、更に訳分かんない理由で隣の席の私が巻添え食わなきゃならなくなったのも、それもこれも元はと言えば誰も実行委員やりたい人がいなかったからよね?そこを仕方なく引き受けた気弱な田中と私に対する感謝の気持ちがあるなら、つべこべ言わずに意見くらい出しなさいよ」
「「「・・・・・・・・・」」」
間髪入れずに放たれるさっちゃんの正論に静まり返った教室で1番のダメージを喰らったのは
「ご…ごめん、松坂さん」
名前の前に枕言葉のように“気弱”を連発された田中くんだと思う・・・。
さっちゃんの勢いに怯んだ男子たちも大人しくなり
なんとか再びホームルームが再開された。
田中くんのチョークを持つ手が心なしかさっきよりも力なく見えるのは気のせいではないと思う・・・
「んで?何か案は?」
「っつってもなぁ、毎年同じようなもんだしな〜」
「仕方ないじゃない、予算も限られてるんだから」
「いいんじゃん?喫茶店みたいので」
「いやよ。生もの取り扱うには色々申請とかあって面倒なのよ。却下!」
「え~、じゃあ劇とかは?」
「思春期の高校生が羞恥心捨てきれずに中途半端な演技とかしてもシラケるから却下!」
「じゃあ、メイド喫茶!!」
「下心みえみえだから却下!」
なんて横暴な実行委員なんですか
やる気のないクラスメートがなんとか案を搾り出してるというのに
セクシー隊長は
バッシバシと切り落としていく。
「さすがだねぇ松坂さん」
「・・・」
室井くん。そこは感心するとこじゃないと思うよ
