日吉さんは、
隣の席の女の子。
2年になって同じクラスになって、隣の席だったけどあんまり話すことはなくて。
窓際でいつも俯いて本を読む俺とは対照的に
いつも元気で賑やかで、ころころよく笑う女の子。
たまに一言、二言喋ることはあったけど
基本的に俺はあんまり人と話すのが得意じゃないから会話も全然で
ーーーでも
クラス替えしたばかりの頃たまたま教室に残った放課後に、窓から見下ろした先の花壇。
なんにも植えられてない殺風景な花壇に日吉さんが座り込んで何かをしてた。
すごく挙動不審で、キョロキョロと辺りを見回しながらポケットから何かを取り出して、そのまま素手で花壇の土を弄り出した。
何やってんだろう。
って2階の窓際から頬杖をつきながら見てたけど
どうやら
なにか植えてるみたいだった。
人が通る度にその手を止めて、ひゅ~♪と無音の口笛を吹いてごまかそうとしてる女の子に
思わず吹き出した。
数分そんなことをしながらなんとか作業を終えたらしい日吉さんは最後に
ーーーぽんぽん
と、両手で土を優しく撫で小さく何かを呟いた。
なんて呟いたのかは
2階からじゃわからなかったけど
その時の日吉さんの
微かに笑った顔が
すごく、可愛いな、
って思ったのを覚えている。
ーーーしばらくして
5月になって
6月になって
そうしたら
日吉さんが撫でた土から
小さな芽が出てきた。
少しずつ、少しずつ
伸びていくそれを
俺はいつも窓から見下ろしていた。
一体なにが咲くんだろう。って、それがいつの間にか楽しみになった。
日吉さんは相変わらず元気で、いつも賑やかで
松坂さんと向かい合っては楽しそうにその表情をころころ変える。
花壇が気になるのと同じくらい
日吉さんを目で追うようになった。
だから、
あの日直の日に
日吉さんと話せたのが
すごくすごく嬉しくて
やっぱり秘密だったらしいあの花壇の向日葵が
俺と彼女だけの共通点になったのが嬉しくて
毎日、挨拶を交わすようになったこととか
俺の読んでる本を気にしてくれたりとか
そういうのが嬉しくて
なんだか日常に、
少しだけ、色がついた気がした。
それが¨恋¨だと知ったのは
亮介たちに言われたからだったんだけど
よく考えればすぐ分かることだった。
けど、分からなかったんだ。
きっかけなんかほんの些細なことで
他の誰かからしたら、つまんない、何気ないことで
でも、そんな小さなきっかけで誰かに興味を持つなんて初めてだったから。
誰かに、心が動くなんて
初めてだったから。
「うん、楽しい」
ぽつり、と呟いた俺の言葉にやなぎんたちが少しだけ目を見開く。
「やっぱり日吉さんのおかげか?」
やなぎんがそう聞くから
「うん」
と、素直に頷いた。
「お前が誰かに固執すんのなんか初めてだかんなぁ~このムッツリすけべ!!」
亮介は意味わかんないけど。
全然意味わかんないけど。
「日吉さんがね、¨ショウ¨の俺じゃなくて¨室井翔¨の俺を好きだって言ってくれたの」
俺が零した言葉に
亮介が口を閉ざす。
「俺、こんななのに」
伸びっぱなしの顔にかかった前髪を少しだけ摘む。
この前からフレームが歪んでしまった眼鏡がズレ落ちるのをその手でそのまま持ち上げた。
地味で、暗くて人見知りで
歌ってない¨俺¨。
「俺は¨俺¨を嫌いだから、それが嬉しい」
俺は¨俺¨が嫌い。
昔から
¨室井¨翔である俺が
嫌いだ。
