「変わった・・・かなぁ」
特別意識してるわけじゃない。
ただ、思いっ切り歌ってるのには変わりないのに
どう変わったんだろう。
自分じゃよくわかんないや。
「翔、楽しそう」
ふわふわ、わたあめ頭のイッチーがポツリと言った。
「楽しそう?」
それに頭を傾げれば
こくん、とイッチーが頷く。
楽しい・・・
この曲に関しては
なんせサビが高いし、転調と変拍子のとこなんかドキドキしちゃって楽しむ余裕なんてまだ全然ない。
けど、そういう理屈抜きでただ歌うことが¨楽しい¨のは、確かかもしれない。
「歌声に表情が出てくるようになったな」
やなぎんが、ニコニコ笑いながらその緩いパーマを揺らす。
「表情・・・」
歌声の表情って何?
固まっていると
「ほら、このAメロの部分なんかは、凄く歪んだ(ひずんだ)感じで歌ってたし」
スコアに書かれた手書きの歌詞をやなぎんが指差す。
その指先がスッと動いて
「サビ部分のとこは、切羽詰まった感じだった」
それを目で追いながら
やなぎんの言葉に妙に納得してみる。
「今まで翔、そういう歌い方してなかったろ?」
やなぎんに促され、こくんと頷く。
言われてみればそうだけどやっぱり意識して歌ってはいなかったなぁ。
ただ、スタジオで歌ってるのに前より高揚感みたいのはある。
声が、伸びるようになった気がする。
「なになに?どんな心境の変化なん?」
ニヤニヤした亮介の顔が近付いてきて、俺は後ずさりする。
・・・気持ち悪い。その顔。
「別に、なんもないよ」
そう呟くと、
やなぎんと亮介が顔を見合わせてニヤリと笑った。
「そ~んなわけねぇじゃんなぁ?やなぎん?」
「そうだよなぁ?」
え?なんで?
二人とも気持ち悪いんだけど。
キョトンとしていれば
「完全に日吉チャン影響だろ~?」
亮介のニヤニヤが
更にレベルアップした。
「なになに?日吉チャンになんかイイことでも言われた?¨室井くんの歌好きよ~¨とか¨室井くんの声しびれるぅぅ¨とか?」
「・・・亮介キモい」
日吉さんはそんなこと言わないよ。
バンドのことだって
日吉さんからはあんまり触れてこない。
それに、俺が歌ってるとこなんて何回かしか見てない。
「日吉チャンの愛の力で、ショウレベルアップか~!!?うっひょー!!なんかエロい!!エロいよ翔くん!!」
ヒャヒャヒャヒャ笑うコイツを
本気で呪いたくなった。
なんでエロいの。意味わかんない。
うざい。昔からうざいけど
本当にうざい。
じっとりと亮介を睨む俺に
「まぁまぁ」と、お決まりのやなぎんの仲裁が入る。
「でも本当に、日吉さんと出会ってから翔歌い方変わったよ」
やなぎんを見上げれば
穏やかな顔でやなぎんが
言葉を繋ぐ。
「ライブ中も前より声出るようになったし、伸びもいい。たまたまなのかもしれないけど、タイミング的には日吉さんの名前がお前の口から出るようになった頃からだよ」
なぁ?とやなぎんがイッチーを見れば
ずっと無言だったイッチーが、やっぱり無言で頷いた。
