隣の席の室井くん①





ーー目を閉じた先に
イメージした映像が浮かぶ。


それを言葉にして吐き出しながら、音を紡ぐ。



地声ギリギリのハイトーンを、スタジオの天井に向けてぶつけていく。



それを取り囲む楽器の音が波になって狭い部屋中に響き渡る。





あぁ、



眩暈がしそうだ。



心地好い、眩暈。





最近、唄うことが



少しだけ



楽しい。









ーーーーーー
ーーシャァァァンっっ!!


部屋に響いたイッチーのシンバルの音で演奏が終わる。


ぐるり、と視界が
反転する。


倒れないように、両足でなんとか体勢を整えながらもふらり、と足元がふらつく。



「おい、翔、大丈夫か?」


ふう、と少しだけ息を整えたやなぎんが、ベース片手にそんな俺を覗き込んだ。



「ヒャヒャヒャ!!い~ね、い~ね!!いい曲じゃんコレ!!ぜってぇライブ盛り上がるって!!」



余裕そうな亮介が、踏ん反り返りながらヒャヒャヒャと笑う。



「予想以上」



スティックをくるくる回しながら無表情で呟くイッチーは、どこか満足そうだ。



「高・・・高い」



俺は喉を押さえながら振り絞るようにしてなんとか声を発した。


裏声を使うわけじゃなく
地声のハイトーンだから
思い切りお腹から声を出す。


そのせいか、腹筋が痛い。


酸素が薄い。


こんなの歌ったあとに他にも何曲も歌ったら
絶対死んじゃう。


ライブ、俺体力もつかな。



「確かにこのサビ高いよな」


やなぎんが、人事のようにサラリと言う。


「ほんっとだよ!!コーラスやってる俺の身にもなれって!!」


コーラスをやるのはいつも亮介。

曲によっては声質的にやなぎんの時もあるけど、大体が亮介。


「いや、でもなんかブリッジの盛り上がり方にしては、サビがちょっと物足りなかったからさ」



イッチーの作ってきた段階ではこんなに高くなかったんだ、この¨伊達眼鏡¨。


けど、やなぎんのアレンジが加わってものすごくキツイことになった。


作曲者のイッチーは「いいと思う」とか言って、簡単にオッケーしちゃうし。



「でも、サラッと簡単そうに出してるように聞こえる」



ツンタン、ツンタン、と
軽くリズムを刻みながらイッチーがそう言うから



「・・・簡単じゃないよ」



俺は溜め息交じりに
うなだれた。




「でもよ~、本当翔歌い方変わったよなぁ~」



そんな俺を見下ろしながらピンクのギターを肩から下ろした亮介が、まじまじと言った。



「あぁ、変わったな」



やなぎんも、続く。



自分じゃよくわかんないけど、最近皆そうやって言うんだ。