「亮介の曲はとりあえずまだ時間もあるし後回しにして、練習しようか」
影のリーダーやなぎんが
ようやく切り出す。
スタジオに入ってもう軽く数十分経ってる。
スタジオ代だって馬鹿にならない。
バイト代なんかほとんどコレに消えていく。
ライブが決まってから、スタジオ借りることが増えたからおかげで夏休み中ずっとバイトだ。
お金が無いわけじゃないけど、
¨あの人¨のお金は使いたくない。
必要最低限は。
前半たっぷり雑談に使ってしまったせいで、残りの時間もあと少し。
ようやく皆が楽器を持って立ち上がったから
俺も椅子から腰を浮かせる。
「んじゃ、この前途中になった¨伊達眼鏡¨からな~」
亮介がピンクのド派手なギターを手にしながらチューニングを合わせる。
こいつは昔から派手好きだ。派手好きの亮介らしいギターだなって思う。
あちこちにステッカーの貼られたギターは更にその派手さを強調していて、亮介の頭みたいに見てると目がチカチカしてくる。
俺には無理な配色だ。
「しっかし、その仮タイトルどうにかならないか?」
黒いベースを手にしたやなぎんが、得意の苦笑いを見せる。
イッチーが作ってきたあの鼻歌とドラムだけの曲。
ようやくメロディーもついて、俺の歌詞もついて出来上がったもののタイトルがまだ。
イメージはあるんだけど
これ、といったものが浮かばなくて未だに仮タイトルのまま。
「ひゃーっひゃっひゃっひゃ!!いいじゃん!!もういっそタイトル¨伊達眼鏡¨で!!」
そんなふざけた仮タイトルを付けたのはもちろん亮介で
理由ももちろん
作曲者のイッチーが伊達眼鏡をかけてたから。
「でもよ~、イッチー眼鏡外しちまったし今アフロだし、やっぱ¨アフロ¨に変える?」
「なら¨わたあめ¨がいい」
だって本当に
わたあめみたい。
小ぶりのわたあめ。
「・・・頼むから真面目にやってくれ」
ジェントルマンやなぎんが(日吉さん曰く)疲れ果てた顔で溜め息をついたのと同時に、ベロン、とベースの音が虚しく響いた。
ドラムの前に座ったイッチーを囲むようにして楽器を持ったやなぎん、亮介、そして俺が立つ。
「俺、この曲のサビ前緊張するんだけど」
はぁ、と溜め息をついた俺に、やなぎんが軽く笑う。
「本当だよな。変拍子の上に転調までしてるからな。無茶苦茶だよ」
「その方がかっこいい」
ドラムスティックを持ったイッチーが、無表情でサラリと亮介みたいなことを言う。
確かにイッチーの鼻歌の段階では
うわ~かっこいい!!って思ったんだけど
いざそれにコードとかがついてみると、こんなに複雑になるとは思わなかった。
勢いのみで作った感じだ。
¨伊達眼鏡¨なんて
ふざけた仮タイトルのくせに、ややこしい曲だ。
「この前中々合わなかったからな、そこの部分」
「俺、これイッチーのタカタカタカタカタンで俺!!って覚えてるからイッチー間違えんなよ~!!」
亮介がイッチーを見れば
「俺は柳のベベンベベンで俺って覚えてる」
作曲者のイッチーが
そう言う。
「俺、亮介の¨カラカラカラ〜カン¨で俺って覚えてるから、亮介こそ間違わないでよ」
俺も余裕ない。
カラオケみたいに演奏の中に主旋律が流れるわけじゃないから、うっかりしてると乗り遅れる。
「誰か一つ間違ったら全員共倒れだな」
やなぎんが、ハハと笑い呟いた瞬間
イッチーのカウントが鳴った。
