アタシは手元の日誌を開き
さっき室井くんが書いたページに目を落とす。
筆圧の薄い室井くんらしい綺麗な文字が綴るのは
一日の時間割と、その最後に今日の出来事の欄。
そこでアタシの視線が止まる。
”今日は教室内が朝から暑く、クーラーが効かない!とみんなが嘆いていました。早く修理してください”
「あはは、間違いないね」
クスクスと笑いを落としながらも、その続きに目を通す。
”中庭の花壇の向日葵が 今日、咲きました”
「………」
思わずそこで視線を止めた。
「いつ咲くかなぁってずっと見てたんだ」
室井くんの声に視線を上げると、
口元をやんわりと上げた暑苦しい姿の室井くん。
「あの向日葵植えたの、日吉さんでしょう?」
ニコリと笑って
窓の下の花壇を指さした。
「…な、」
室井くんの言葉に目を丸くしたアタシは、思わず正面の彼を凝視する。
「日吉さんが、春頃に放課後一人で植えてたのこっから見てたんだよ」
「…まじですか…」
なんてこった。
何でだろう。なんか恥ずかしい。
だって、こんなガサツで女らしさのかけらもないアタシが花とか最早笑えるでしょう。
笑われるの分かってるから誰にも見られないように放課後にこっそり植えたのに…。
さっちゃんにすら、言ってないのに!!
「日吉さん、花好きなの?」
「いや…!あの、アタシ緑化委員だし、ほら、委員活動の一環というか、なんといか…」
何やら恥ずかしくて視線を泳がせながらしどろもどろに答える。
うちの学校の緑化委員は実質、名ばかりの委員会で有名で、活動がほぼないからという理由で毎年人気の委員だ。
かくいうアタシも、そんな理由で立候補し、めでたくジャンケンで勝ち取ったクチだ。
「女の子らしいね」
「や、やめて下さい、すいません、ごめんなさい」
ニコニコしながらそんなことを言わないでほしい!
勘弁して下さいと頭を下げるアタシに室井くんは頭を傾げる。
「えぇ?なんで謝るの?変なの日吉さん」
ニコニコ笑いながらおっとりとした動きで
日誌をアタシの手から奪うと
「向日葵、なんか日吉さんっぽいよね」
と、呟いた。
伏せていた顔を上げると
頭上で室井くんが窓の外の向日葵を見つめる。
そして何故か、やっぱりそれにドキドキするアタシの心の臓。
