隣の席の室井くん①



慌てて携帯を覗くと


「・・・げ」


着信履歴には¨さっちゃん¨の文字が並んでいた。


「うおー・・・ヤバイ。めちゃくちゃ着信入ってる・・・」


絶対怒ってる!!めちゃくちゃ怒ってるに違いない!!
アタシがアワアワと慌てふためくその横で



~♪



「あ、亮介」



今度は室井くんの携帯が鳴った。
…が、携帯を開いて見つめたまま室井くんは電話に出ようとはしない。



「で、出なくていいの?」

「うん」

「心配してるんじゃない?」

「うん」



室井くんが呑気に頷いてる間に、携帯は振動を止めた。そしてそのままポケットに入れると



「だって五月蝿いんだもんアイツ」


と、ニッコリ笑いながら携帯の電源を落とした。
相沢くんには本当強気よねアナタ



「日吉さん、もうすぐ花火始まるよ」


携帯を閉じた室井くんは前方を指差しながらゆっくりとした口調でニッコリ笑う。


花火開始の時間まで
あと3分。



それなのに、この場所にはアタシたちと、そこから離れた場所にもう一組のカップルのみ。

本当に穴場だね、こりゃ。



「俺、お祭り初めて」



室井くんが、嬉しそうに呟いた。



「え?初めて?」



思わず、聞き返す。



「うん、お祭りとか花火大会とか来たことないの」

「そうなの?」



こくり、と室井くんが頷いた。


16、7年間生きてて花火大会やお祭りに来たことない人って珍しくないか?


アタシも人混みは苦手だけど
それでも小さい頃家族に連れられて来たりとか
友達と来たりとか普通あるよね?


不思議そうな視線を送るアタシに構わず室井くんは



「だから、初めての花火、日吉さんと一緒に見れるの嬉しい」


前を見たまま、そんな恥ずかしワードを
またしてもペロリと口にする。


・・・本当に、この人はどこまでもストレートだな。
どう答えていいのかわかんない。
照れるばっかりで気の利いた台詞を返せない。

相変わらずニコニコしながら町並みを見下ろす室井くんを横目でチラリと盗み見る。


白く透き通るような肌に
羨ましいくらいに整ったパーツ。
少しズレ落ちた眼鏡から覗く、綺麗な瞳に長い睫毛。

改めて見てもつくづく思う。

なんでこの人、アタシなんかと付き合ってるんだろう。より取り見取りだろーよ。


「室井くんてさぁ、変わった趣味してるよね・・・」

「うん?」



自分で言ってて、激しく虚しいけれども。




あっという間に日が傾いて辺りが丁度よく暗くなった時ーーーーーー




ーーーひゅるるるる~



「「あ」」



二人同時に呟いた
次の瞬間。



ーーーどーーーん!!!!!!



夜空に大きな花火が咲いた。

一瞬にして咲いた大きな花火が、色とりどりに夜空を彩る。



「わ~!綺麗だね~!!」



興奮気味に見上げるアタシの横で室井くんも同じように夜空を見上げる。


「なんて言うんだっけ、こういう時」

「え?」

「ん~と・・・みけ・・・じゃなくて、ぽち・・・じゃなくて・・・」



・・・室井くん。それはもしかして・・・



「・・・たまや?」

「あ、そうソレだ」



犬や猫の名前じゃないんだから

ズレたことを言う室井くんは、次々と上がっていく花火を瞳を輝かせながら見上げる。


パラパラと、咲いては散っていく花火が絶え間無く夜空に打ち上がっていく。



「花火って、横から見たら平べったいのかな?」

「・・・それはどうかな」

「どこからだったら平べったい花火見れるかなぁ」



小学生みたいな質問するのねアナタは。
花火は多分、どっから見ても丸ですよ。
室井くんの夢を壊したら可哀相なので黙っておこう。
ここは優しさを発揮してみよう。


花火の上がる音が鳴り響く中、アタシと室井くんは手を繋いだまま花火を見上げる。

花火のおかげで緊張も少し和らいできた。


しかし、室井くんの手冷たいなぁ。
真夏にこの体温て大丈夫?この人。
本当にポックリ逝っちゃいそうな位、冷たい。



「室井くん」

「ん?」


花火から視線をこちらに移した室井くんに、少しだけ戸惑いながら、アタシも室井くんを見る。