隣の席の室井くん①



アタシ、どうしちゃったのさ。
なんで室井くん相手にこんなドキドキしてんのさ。

不思議キャラで、眼鏡キャラで
オタク風な室井くんだよ?

いくら滅多に喋らない室井くんが喋ってるからって
いくら恋愛経験ナシのアタシが”可愛い”とか言われちゃったからって、ドキドキしちゃうって何!!?


暑さのせいか…このうだるような暑さのせいで脳がバグを起こしているのだろうか。

うん、そう。きっとそうに違いない。
熱中症の一歩手前まで来てるんだ。


心の中でそう自分に言い聞かせ、赤い顔を落ち着かせていると、日誌に向かっていた室井くんが



「出来た」



と、小さく呟いた。



「あ、うん、ありがとう」



なんとか平常心を取り戻したアタシは
結局、室井くんに全部書かせてしまった日誌を受け取りお礼を告げる。


そんなアタシを静かに視線で追いながら



「俺ね、こんな髪型だし、ド近眼だし、よく亮介にも”お前それで前見えてんの?”って言われるんだけどね…?」



小さくそう言葉を発する室井くんの声は

高くもなく、低くもなく

独特のトーンの声で


ギャーギャー騒ぐ、クラスの男子とは違う
ゆっくりと歌うような不思議なリズムの
独特のテンポの口調。


そんなことでさえ同じクラスになって3ヶ月も経つのに初めて知ったアタシは、日誌を開こうとしていた手を思わず止め、室井くんを見た。


視線が合うと
へへ、とまた笑い俯きながら



「でもね、ちゃんと見えてるんだよ」



と、日誌を指さした。