花火の時間が迫るにつれ
人混みのレベルも上がっていく。
時折、
「おっせぇよ~!!翔!!日吉チャン!はぐれちまうって!!」
と、相沢くんが振り返り
「そこの軟弱カップル、さっさと歩きなさいよ!!場所なくなっちゃうじゃない!!」
と、さっちゃんが舌打ちをする。
二人とも、どんな技を使っているのか、人混みをひょいひょい交わしながらどんどんと進んでいく。
「さっちゃん見てアレ!!ザリガニすくいだってよ!!」
「うっさいのよアンタはいちいち!!ザリガニなんて沼行きゃすくえるわよ!!」
人混みの中でも、なんて目立つんだろうか。
あの二人は。
一方のアタシたちは
人混みをうまく避けられずすれ違う人とことごとくぶつかりまくる室井くんと
ぶつかる度に「すいません」と謝る室井くんに顔を赤らめる女の人たちを、ムッツリしながら見ているアタシ。
当たり前のように相沢くんたちとの距離はどんどんと、離れていく。
「日吉さん、大丈夫?」
そんなアタシを心配そうに見る室井くんだけれど
それよりも貴方の方が大丈夫ですか。
アタシなんかより青い顔してマスけども。
人とぶつかる度に眼鏡がズレるのか
それを世話しなく直す室井くんは、今にも倒れそうだ。
鳴り響くお囃子の音と
ザワザワと耳障りな人の喧騒をBGMに室井くんの横顔をボーっと見ていたアタシは
完全に前方不注意で
「ーーーわっ」
ドン!!と、真正面から思いっきり誰かとぶつかってしまった。
「いてーな」
低い声に見上げると、
坊主頭にラインの入っちゃってるイカツイお兄さんが、舌打ちしながらアタシを見下ろしている。
「す、すいません」
こわ、恐すぎるでしょーが!!
なにこの人の眼力!!
今にも人を殺しかねない勢いですよ!!
ひいぃぃ!!と心の中で悲鳴を上げながらジリジリと後退すると、
「すいません」
と、横からスッと
白い腕と、グレーの浴衣の袖が見えた。
「あ?お前の女かよ」
イカツイ坊主が、アタシの前に立った室井くんに詰め寄る。アタシでは黙って、その細い背中の後ろで驚く。
「はい」
室井くんの、高すぎず、低すぎない綺麗な声が響く。
「気をつけます、すいません」
いつの間にか眼鏡を取った室井くんが、アタシを庇うように前に立ってくれる。
・・・まさかの室井くんが。
あの、のほーん、ふわーん
ひょろろーんな
室井くんが。
まさか、
こんなイカツイ坊主に
立ち向かうなんて、
アタシは驚きながら
室井くんの顔を見上げた。
