「に、匂いって!」
貴方は犬ですか!ていうか、匂いってなんですか。
そんな匂いがわかるほどの接近戦は数える程度しかないハズ。
って!!いやいやそうじゃなくてね!
「日吉さんの匂い好き」
小さなテーブル越しに少し身を乗り出した室井くんは
白く長い腕を伸ばし、アタシの髪を一掬いし鼻元に寄せる。
「む、む、室井くん!!!!」
なんですかこの状況!!
は、は、恥ずかしすぎる!!
さっきまで語りモードだった室井くんは
急になんのスイッチが入ったのか、どこぞやの国の王子よろしくな動作を醸し出す。
いつものキタローバージョンだと、もっさりに拍車をかけるだけのアイテムである黒ブチ眼鏡も
前髪のないバージョンだと、素敵度を増させるアイテムになっちゃうんだから恐ろしい。
髪型一つで、こうも変わるものなのか人間は。
いくら同一人物と分かっててもね!やっぱり、このバージョンの室井くんにこういうことされるとドキドキしちゃうよ。
だって、いつも隠れてる室井くんの綺麗な二重の瞳と真っすぐ目が合ってしまうと、どうしていいのか分からなくなる。
真っ赤になったアタシの顔を不思議そうに見て頭を、ん?と傾げる室井くんに恐らく自覚はナイ。
前髪が下りてよーがなんだろーが
室井くんは室井くんだから。
使い分けてるわけじゃないのも分かってるケド
・・・無自覚だからこそ尚恐ろしい。
この人は、一体
肉食系なのか草食系なのか未だ掴めない。
「顔赤い。暑い?」
「いや、あの、えと、うん・・・」
しどろもどろに視線を泳がすも思いの外距離が近くてますます心臓が暴れ狂う。
死ぬ。死んじゃうんで
離れて下さい。
・・・そんな願いは届かず
室井くんはテーブル越しにアタシの黒髪を弄りながらニコニコしている。
なんか悔しいな。
いつもアタシばっかりドキドキしてる気がする。
それこそ、付き合う前は室井くんもアタフタしたり赤面したりしてるのを見た気がするけど
付き合い始めてからは
やたらこの人強気じゃないですか?
・・・ちくしょう。
「どーしたの?」
むー、と顔をしかめるアタシを再び首を傾げて室井くんが不思議そうに見る。
「だって、なんかズルイよね室井くん」
「ずるい?」
「うん、ズルイ。」
意味がわからない、とでも言うような、少し困惑した顔をする。
「だって、アタシばっかりいつも室井くんに翻弄されている気がシマス」
「ほんろう?」
こくんと頷くと、室井くんが髪の毛から手を放しその手をテーブルに置いた。
