隣の席の室井くん①


「それよりも、室井くん大丈夫なの?」

「え?なにが?」

「なにがって、バンド!ボーカルやってるのペロリと言っちゃってたケド!!」



なに、呑気にのほんとしてるんですかこの人は!!


クラスメートや、バンドのファンですら知らないようなトップシークレットを簡単に喋っちゃったじゃないですか!!


「あ~、うん、大丈夫」


ニコニコ笑いながらなんでもない風に答える室井くん。


「でも、」
「だって」



慌てるアタシを、室井くんが遮る。


「日吉さんのお母さんとかお兄さんに嘘つきたくないもん」


ほわん、と笑いながらそう言う室井くんに
アタシは目を丸くする。



「俺ね、最近少しだけ自信が持てるようになったんだ」

「自信?」

「うん」



室井くんは寄り掛かっていたベッドから背を離し、少し恥ずかしそうに分けられた前髪を触る。



「俺、自分のことあんまり好きじゃないから」


困ったような、言いにくいような顔でそんなことを言う。



「歌うのは嫌いじゃないし、誰かに必要とされるのも嬉しいんだけど」



ゆっくりと、ゆっくりと
室井くんが言葉を紡ぐ。



「でもね、歌っててもいつもどこか自分じゃない気がするんだ。皆が見てるのはショウであって俺じゃないから」

「・・・」


確かに、歌ってる¨ショウ¨の時の室井くんは
まるで別人だ。


アタシだってそう思った。


「おかしいでしょ?そうしたのは自分なのに」



室井くんは、¨ショウ¨として歌うことが嫌なの?


「もちろん、不満があるわけじゃないよ。バレるのにはやっぱり抵抗あるし」


アタシの思考を読んだかのように室井くんが言葉を付け足す。


「うーん…なんていうのかな」そんな風に少し言い淀みながら室井くんは続ける。


「¨ショウ¨が先行すればするほど、¨自分¨がなくなるカンジ・・・かなぁ」

「・・・室井くん」

「あはは、そんな顔しないで」



だって、
そんな悲しいこと言うから。


バンドで歌ってる¨ショウ¨は、確かに別人みたいだけど、でも間違いなく室井くんじゃない。


そう思うのに、言葉が出ない。


簡単に、口にしちゃいけない気がして・・・



そんなアタシを見て、室井くんが穏やかに笑う。



「言ったでしょ?最近少しだけ変わったんだ」



前髪の除けられた室井くんの綺麗な顔が、柔らかく頭を傾ける。



「日吉さんのおかげだよ」

「ア、アタシ?」


それにアタシも思わず頭を傾げた。