クーラーのよく効いた部屋は外とはまるで別世界のように涼しい。
時折、ぶぉん、と間抜けな音をたてるクーラーも
おんぼろだけど立派に役目を果たしている。
そんな中、終始ニコニコ顔の母さんとニヤニヤ顔の兄貴。そして最早何を考えてるのかなんて皆目検討つかない室井くん。
そんな彼らに囲まれたアタシは一人、冷や汗的なものをかいている。
この場で唯一の話題提供者の母さんが再び口を開く。
「それにしても翔くん、いい声してるわねぇ」
ニヤニヤ顔の兄貴の横で
煎餅を頬張りながら、母さんが呑気に言った。
てかさ、せめて出すならケーキとかクッキーとか出して欲しかったよ。煎餅て。
いや、そもそも我が家は
常時クッキーやケーキなんかが置いてあるような家庭じゃないんですけどね。
アタシも小さい頃から3時のおやつといったら
煎餅やら羊羹やらかりんとうやら出されてきたしね。
「確かになぁ、低すぎず高すぎず、いい声してんなぁ」
兄貴もその会話に食いついた。
そっか。室井くんの声をいぃなぁって思うのはアタシだけじゃなかったか。
なんてったって
SnakeFootのボーカルですものね。
歌ってる時の声も迫力あってカッコイイんだけど
喋ってる時の声ってもっと抑え目で、小さい。
でも、不思議とよく通る声なんだよね。
「その声で歌なんか唄ったら素敵ねぇ」
母さんが、とんでもない事を言う。
「え!!?母さん!!?」
アタシは思わず目を見開いて母さんを見た。
まさか室井くんの素性(?)を知ってるわけないわよね!!?
「なによ純。突然大声出して」
母さんが白い目でアタシを見た。
「い、いや、なんでもないデスヨー」
ひゅー、と鳴りもしない口笛を吹きごまかしてみる。
「はぁ、ごめんなさいね翔くん。落ち着きのない娘で」
やれやれと母さんが呆れ顔で室井くんに謝罪する。
・・・アタシの立場ナシ。
そんなやり取りを見てクスクス笑う室井くんは
アタシの横で体を揺らす。
・・・ほら。笑われてるよ。
そうよね。大体学校の人たちやバンドのファンですら
室井くんがボーカルなこと知らないのに
音楽なんて聞きもしないこのオバサンが知ってるわけないじゃんよ。
ホント、落ち着け自分。
平常心を取り戻そうと深呼吸をしたアタシの横で
室井くんはクスクス笑っていたかと思うと
「俺、バンドで歌唄ってるんです」
と、サラリと口にした。
