大体にして、室井くんがこんなに喋るのを初めて見る。教室でクラスメートと喋っているのをほとんど見たことがない。
アタシは咳払いをして心を落ち着かせると
「室井くん…なんか珍しいね、こんなに喋るの」
と、チラリと室井くんに視線を向けた。
「そう?」
それに、ふにゃりと口元を緩めながら頭を傾げる。
クラスの人達ともそうやってもっと話したらいいのに…。
教室ではほとんど口を開かない。
話しかけなきゃ話さない。
「ん~、でも俺、極度の人見知りだからなぁ」
うん、そんな感じよね君は。
でも待て
「え、でもアタシとは普通に話せてるでしょう?」
今まさに。
そんなアタシの問い掛けに
「あ~うん、ね?なんか日吉さんは話しやすい」
へへへ、と笑って頭を傾げる室井くん。
KAWAIIかよ!!!
待て待てアタシ。
落ち着けよ。暑さでいよいよ頭がやられたか。
相手はこの室井くんだよ?
この暑い中、もっさりキタローヘアーの室井氏だよ?
「あ、あのさ!その髪の毛!暑くないの!?」
なんとか平然を装うと話題を変えるようにして室井くんの前髪を指さす。
「髪?」
自分の前髪を指で摘まむと上目遣いにそれを見上げた。
その所作のせいでハラリ、と退けた前髪の合間から、隠れていた眼鏡の下の瞳が僅かに覗いた。
「む、室井くん!!!」
「わわわ!な、なに日吉さん!」
勢いよく身を乗り出したアタシに、今度は室井くんが退ける番だった。
