* * *
あっという間に夏休みに突入し、いよいよ夏真っ盛りといわんばかりの気合いの入った蝉の大合唱が鳴り響く正午。
今年の暑さは異常じゃないかと思う。
だって暑い。
なんたって暑い。
そういや、ニュースでも言ってたよ。
20日連続の猛暑日だって。
ちょっと大丈夫なわけ?ジャパン。
このままいったら北極の氷も溶けるんじゃないの?
白熊さんもビックリなんじゃないの?
てか、白熊さんの心配してる場合じゃないよ。
環境問題よりまず自分の身の心配だ。
だって、アタシの部屋にはクーラーがないんですよ。
窓全開ドア全開でなんとか風がうっすら通るけど
そんなんでごまかし利く暑さじゃないと思うのよ。
扇風機なんて最早生温い風を送ってくるばっかりでなんの意味もありゃしない。
「あれ、純。お前学校は?」
ベッドの上でだらけるアタシの背後から、兄貴の声がする。
「あ~ん?何寝ぼけたこと言ってんのさ。夏休みだよ夏休み」
「あ~そっかそっか」
よっと上体を起こし、ノロノロとベッドに座りドアを見遣れば、兄貴がうすら笑いを浮かべながら部屋に入ってきた。
「ちょっと、勝手に入ってこないでよ。フホーシンニュウ極まりない」
「ドア全開にして何が不法侵入だよ」
「だって暑いんだもん」
「確かにな~今年は異常だよな~、北極の白熊さんも今頃ビックリだろ~な」
・・・さすが兄妹。
兄貴と同じ発想をしてしまうとは・・・
「しっかしお前、折角の夏休みなのに遊びも行かないでぼけっとしてるとか虚しいな~」
カカカと白い歯を見せて笑う兄貴は、すでに夏満喫してるゼ☆とでも言わんばかりに真っ黒だ。
いいよね~大学生。
学生なんて名ばかりで兄貴は毎日遊び歩いている。
平日もほとんど顔を合わせることもない。
「ほっといてちょーだい。いいの~どーせ一週間後からは補習も始まるし、今のうちに骨休めしとくんです」
「お前今年も補習か!!我が妹ながら相変わらず頭悪いな~!!」
・・・ほっとけ。
こんな真っ黒で、いかにも夏男☆みたいな風貌の奴に言われたくない。
そのくせ兄貴はちゃっかり頭もいいから余計に腹が立つ。
きっとママンのお腹の中で兄貴が頭脳面は全て掻っ攫っていったにちがいない。
だから妹のアタシの頭がこんなに悪いにちがいない。
みーんみんみん、と
耳障りな蝉の声が部屋にこだまする。
額を流れる汗が目にしみる。
あぁ・・・しぬ。
「リビング行きゃいいじゃん。クーラーついてて涼しいぞ?」
「だって下にいると母さんに¨ゴロゴロしてないで手伝いくらいしなさいよ!!¨って言われるもん」
「母さんなら今買い物行ってていないぞ?」
「うっそ!!まじ!!?んじゃ下いこ~っと」
鬼のいぬ間に涼んでおこう。このままじゃ沸騰して茹だってしまう。半ばスキップで階段を駆け降りるアタシの後ろを、何故か兄貴はついて来る。
それも何故かニヤニヤしながら。
リビングに入るとクーラーの利いた涼しい風がそよそよと額の汗を冷やす。
「あ~~。極楽。クーラー考えた人って偉大よね。」
その風を浴びながら、ソファーに大の字に寝転ぶ。
あぁ、ほんと極楽。さっきまでの暑さが嘘のよう。
もう今日はこのまま家で涼もう。
母さんの愚痴に負けてたらアタシの命が危うい。
「・・・ところでさ。さっきから兄貴は何をそんなにニヤニヤしてるわけ?」
チラリと横目に見える兄貴は、さっきからずっとニヤけた顔のままソファーに寝転ぶアタシを見ている。
そんな兄貴は
「俺、見ちゃった」
と、さらにニヤリと白い歯を見せる。
「は?何を」
その爽やかそうな白い歯がなんだか無性にムカつくんですけど。
「お前がこの前、男と歩いてるの」
「は!!?」
思わず、目を見開いてソファーから上半身を起こした。
「い、いつ」
「先週あたりか~?桜木町駅前で男といたろ~?」
・・・先週あたり。
は!!室井くんの家にお邪魔した日だ!!
あんなへろ~ん、ふわ~んとしてるくせして
帰りは一人じゃ危ないからって駅までしっかり送ってくれたんだよね。
意外と出来る子なのよ室井くんったら。
ーーーて、そうじゃなくて!!
まさか兄貴もあそこにいたとは!!!!
しかも見られていたとは!!
あわあわするアタシに
「もしかしなくても、彼氏?」
ニヤリ、と笑った兄貴の顔には面白いものでも見つけたかのような嫌な表情が浮かんでいて
それにものすんごく嫌な予感がするわけで。
「いや~・・・彼氏とゆーか、なんとゆーか・・・」
兄貴にこんな話したくないし、何より恥ずかしいし
違うと言えば済むことなのに、それはそれで室井くんに悪い気もするし・・・
とモゴモゴしていると
「へ~え、ふ~ん、純に彼氏ねぇ」
兄貴が最高潮にムカつく笑みを浮かべた。
