シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

舞香の髪に触れた指先のぬくもりが、
まだ頬の奥に残っている気がした。

言葉は多くなかった。
でも、あの一枚の花びらが――ふたりの距離を確かに変えた。

ベンチに並んで腰かけたまま、
ふたりはそっと視線を交わした。

朝比奈は、不意に息を吸い込むようにして、言った。

「……こうして並んでるの、変な感じですか?」

舞香は、少しだけ笑った。

「いいえ。
むしろ……自然すぎて、自分でも驚いてます」

「それ、俺もです」

声が重なるように響いたあと、
小さな沈黙が訪れた。

それでも、気まずさはなかった。
むしろ、居心地がよかった。

(なにか、言葉にしなきゃいけないわけじゃない)

でも、言わずにはいられなかった。

「……朝比奈さんと、またこうして会えるって思ってませんでした」

「俺は、会いたいって思ってましたよ。
ずっと、どこかで――きっかけ、ないかなって」

「きっかけ……」

舞香は、ふと視線を落とす。

「それ、もうあったのかもしれませんね。
こうして今、ちゃんと話せてる」

「じゃあ、今度は……こっちからきっかけ、作っていいですか?」

顔を上げた舞香の目の前に、
朝比奈がそっと手を差し出した。

「このあと、イベントが終わったら。
少しだけでいい、一緒に歩けませんか?」

舞香は、一瞬だけ戸惑った表情を浮かべ、
それから、ゆっくりと手を伸ばした。

指先が、確かに重なる。

「……はい。私も、少しだけじゃ足りなくなるかも」

ふたりの手は、
今度こそ、ためらいなく結ばれていた。