シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

「……そろそろ、交代してきな」

香奈衣が紙コップを片手に現れる。

「おしぼりの補充は任せて。顔、ちょっと疲れてるよ」

「……わかりました。少しだけ、座ってきます」

舞香は苦笑しながら紙コップを受け取ると、
休憩スペースのベンチへ歩き出す。

そこに、朝比奈がいた。

私服に身を包み、静かに腰をかけていた彼は、
舞香が隣に座ると、そっと目線を向けた。

「おつかれさまです。ずっと見てました」

「……恥ずかしいですね、それ」

ふたりは小さく笑いあった。
でも、どこかくすぐったい沈黙が流れる。

「……あ、舞香さん」

「え?」

「頭、ちょっと動かさないでください」

そう言って、朝比奈の指がふわりと伸びる。

舞香の髪に、ちいさな花びらが一枚、ひっそりと乗っていた。

朝比奈はそれをそっと摘み取ると、手のひらに乗せて見せた。

「さっき、外からの風に紛れてたのかも。……なんか、似合ってましたよ」

舞香の頬がふっと染まる。

「……ずるいですね、そういうの」

「そうですか? わりと本気だったんですけど」

朝比奈の声は、いつもより一段低くて、
でもやわらかかった。

舞香は、言葉に詰まったまま目をそらす。
けれどその口元には、小さな笑みがにじんでいた。

ほんの短い時間。
でも、それは確かに――ふたりだけの、やさしい瞬間だった。