シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

舞香が年配の女性にコーヒーを差し出す場面を、
朝比奈は少し離れた場所から静かに見つめていた。

彼女は、派手なことをしているわけではない。
声を張り上げるでもなく、華やかな接客をしているわけでもない。

でも――

そこに集まる人たちの顔が、少しずつやわらいでいくのを、
朝比奈は確かに感じていた。

(言葉じゃない。空気なんだ)

舞香のそばには、なぜか人が集まる。
彼女の気配が、“ここにいてもいい”と思わせるのかもしれない。

目の前の女性が、コーヒーの香りに目を細めて言った。

「この匂いって、“心が戻ってくる感覚”をくれるのよ」

その言葉に、舞香がゆっくりと頷いた。

朝比奈は、少しだけ目を伏せた。

(“支える”って、きっと、こういうことだ)

ただ与えるんじゃない。
相手が自分自身を取り戻せるように、そっと寄り添う。

“守る”ことしか知らなかった自分にとって、
その姿は、静かな衝撃だった。

(俺、……この人に、惹かれてる)

名前を呼ぶでも、手を伸ばすでもなく――
ただ、その後ろ姿を見ていた。

それだけで、
今の自分には、十分すぎるほどだった。