シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

「舞香」

少し離れたところから声をかけられて振り向くと、
香奈衣が紙袋を片手に、落ち着いた足取りで近づいてきた。

「おしぼり、追加で持ってきたよ。数、足りないって聞いたから」

「……ありがとうございます。すごく助かります」

舞香は笑って応えたが、口元はほんの少しだけ引きつっていた。

香奈衣はそれを見逃さない。

「さっきの、見てたよ。
“きれいごと”って言われたとき、少しだけ固まってた」

舞香の指先がわずかに揺れた。

「……自分のやってることが、ちゃんと届いてるのか、
たまに不安になります」

「でも、ちゃんと返してた。
正論じゃなくて、“想い”で答えたでしょ?」

香奈衣は、紙袋をテーブルに置いて、舞香の肩を軽くたたく。

「反論するんじゃなくて、ちゃんと伝える方が強いんだよ。
……あなたの言葉、届いてたよ」

舞香は、一瞬だけ驚いたように目を見開き、
すぐに小さく、でもしっかりとうなずいた。

「……はい。ありがとうございます」

「今日の舞香、いい顔してる。だから、もうちょっとそのままでいて」

そう言って香奈衣は、いつもの調子で
「じゃ、次はゴミ袋替えてくる」と歩いていった。

その背中は、どこか誇らしげだった。