シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

「舞香、これ受付のカウンターに置こうか。
あなたが書いた“ひと息どうぞ”、文字がやさしくていい感じだよ」

香奈衣の手元にある小さなポップは、
舞香が夜遅くまで悩みながら書いたものだった。

少し丸く、力の抜けた字は、
彼女の“この場所をあたたかくしたい”という想いを、そのまま紙に落としたようだった。

「ありがとうございます……なんだか照れますね」

「でもね、ああいうのは飾らない方が伝わるの。
だからそれで、正解」

香奈衣はいつものように淡々と――けれど、どこか優しく言った。

「緊張してる?」

「……ちょっとだけ。でも、大丈夫です」

「そ。
あなたがここに立つまでに何があったか、私は知ってるから」

舞香は、そっと手元に視線を落とす。

香奈衣の言葉は、強くはない。
けれどいつも、その芯にあるものが、舞香の背中を確かに押してくれる。

「大丈夫。今日は、“誰かの安心になる人”として、ここにいるんだよ」

静かに、けれどしっかりと――その言葉が、舞香の胸に届いた。

舞香は、深呼吸をひとつしてから、
受付カウンターに向かった。