シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

訓練の終了後。
片づけが終わりかけた会場の脇、ひとけの少ないベンチで、
舞香と朝比奈は並んで腰を下ろしていた。

「今日は、ありがとうございました。
いろいろと……気づかされた一日でした」

舞香の声に、朝比奈は小さくうなずいた。

「俺もです。舞香さんの動き、見てました。
ほんとに……すごかったですよ」

「いえ……すごくなんか、ないです。
でも……少しずつ、変わりたいなって思ってます」

舞香はゆっくりと、空を見上げた。

「前は、自分のことで精一杯で……
何かあるたびに、誰かに守ってもらうことばかり考えてたけど。
あの火災のあと、あなたに助けてもらって……
それからなんです。
“守られる側”でいるのが、すこしだけ苦しくなったの」

朝比奈は、黙ってその言葉を聞いていた。

「だから、あなたの隣に立てるようになりたいんです。
少しでもいい。
あなたが前を向くときに、背中を支えられるような……
そんな存在に、なりたい」

その言葉に、朝比奈の胸が温かくなる。

舞香の言葉はまっすぐだった。
飾りも、遠慮もなくて。
でも、それが何より彼女らしかった。

「……それ、すごく嬉しいです。
でも、焦らなくていい。
舞香さんはもう十分、誰かを動かせる力を持ってます」

朝比奈の手が、そっと舞香の手のそばに置かれる。

まだ触れない。
けれど――もう、その距離は“つなげるための距離”だった。

ふたりは静かに並んで座り、
これから先を、同じ速度で歩いていく予感だけを胸に抱いていた。