シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

「……こちらになります。どうぞ」

久瀬消防署の応接ブース。
広報資料の受け渡しと、来月に控える地域イベントの事前打ち合わせ――
その名目で、舞香は朝比奈を訪ねていた。

制服ではなく、今日はTシャツに紺のスラックスの彼。
けれど、背筋の伸びた佇まいは変わらない。

「来てくださってありがとうございます。
体調、大丈夫ですか?」

「はい。あのときも、助けてくださって……ありがとうございました」

舞香は静かに頭を下げる。

「おかげさまで、お客様も元気に退院されたと聞いています。
……ああやって動けたの、海斗さんがいつも冷静に対応してくれるおかげです」

「それは、舞香さんが落ち着いてたからです。
現場にいるとよくわかります。
“安心させる空気”って、技術以上に、伝わるものなんです」

少し照れたように微笑む舞香に、朝比奈も口元をゆるめる。

そのとき――

「あれ? あの人、朝比奈さんの彼女?」

遠くからひそひそと聞こえる隊員の声。

「違うって。でも、あの距離感……ほら」

「静かにしろ。天野副署長に聞こえるぞ」

若い隊員たちが、そわそわと背後を気にしているのがわかる。

その気配に気づきながらも、
舞香と朝比奈は顔を見合わせて――ふっと、笑い合った。

並んで立つのは、なんだか少し照れくさい。
けれど、悪くないと思った。

ここで交わす会話が、
どこか特別な“仕事”に変わっていくのを、
舞香は確かに感じていた。