シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

「……最近さ」

閉店後、カウンターで片づけをしていた舞香に、香奈衣が不意に声をかけた。

「なにかいいことあった? 顔つき、変わったよ」

「えっ?」

「うん。前はもうちょっと、遠くばっか見てた感じだったのに、
最近は、ちゃんと誰かを見る目してる。……恋してる人の顔」

舞香は、思わず手にしていたカップを止めた。

「そんな……わかるもんなんですか?」

「わかるよ。あなた、昔から素直な顔してるし。
照れるときの耳、ちょっと赤くなるのも、前からバレてる」

「……ほんとに?」

「うん。まあ、からかってるって思ってもいいけどさ」

香奈衣はにやりと笑う。

「でも、悪いことじゃない。誰かを想うって、ちゃんと人を変えるから。
――前よりも、前に進めるようになる」

舞香は、その言葉を黙って聞いていた。

思い当たることが多すぎて、何も言い返せなかった。
でも、悪い気はしなかった。

「……ありがとうございます」

「どういたしまして。
あなたがいい顔してると、私もちょっと救われる気がするのよ」

それはまるで、
少しだけ未来にいる誰かからのエールのようだった。