シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

「……また来たのかって顔しないでくださいね」

店のドアをくぐった島崎が、先にそう言った。

香奈衣はカウンターの奥で帳簿を確認していた手を止め、
ゆっくりと顔を上げる。

「いや、ちょっとはする。さすがにペース早すぎ」

「やっぱりかあ……」

「で、今日は何。
“忙しくて癒されに来ました〜”ってやつ?」

「いや、今日はちゃんと“凹んでます”の日です。
副所長に叱られました。報告書、やらかしました」

「……ああ、それは叱られて当然だね。
でもまあ、ちゃんと反省して来てるなら、座りなよ」

香奈衣はふっと笑って、
グラスに冷たい水を注ぐ。

「ほら、水でいいよね? 甘いのは次のがんばりで」

「はい、ありがたく頂きます……」

氷がカランと鳴く音の中、島崎はぽつりと呟く。

「香奈衣さんも、俺の“帰れる場所”になってくれたりしません?」

香奈衣は、ふいに真顔になった。

「そういうの、いつもなら軽くスルーするけど……
今のあんたなら、ちょっとは本気で考えてあげてもいいかも」

島崎の目が見開かれる。

「マジで……それ、今の俺に一番効くやつです……」

「じゃ、ちゃんと効いといて」

ふたりの間に、ほのかに漂うあたたかい空気。
それはまだ名前のない想いだったけれど、確かに芽生え始めていた。