シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

「島崎。報告書、5枚目の記載、全然違う現場になってるぞ」

天野副所長の声が、いつもより少しだけ低く響いた。

久瀬消防署の事務室。
訓練後の整理と報告書作成の中で、島崎はこっそりあくびをかみ殺していたところだった。

「え、マジですか……あ、ほんとだ。あれ? これ、前回のコピーが混ざって……」

「“あれ?”じゃない。お前、現場の報告に責任持つって言ったよな?」

「……すみません」

肩をすくめながら謝る島崎の横顔に、天野は目を細めた。
怒っているというより、呆れているような、でも――どこかあたたかさもあった。

「お前な、隊員としても男としても、“信用”は地味なところで落ちる。
ミスするなとは言わん。だけど、同じところでつまずくな」

「はい……肝に銘じます」

「ったく。次からは俺が確認する前に、自分で気づけ。
ま、いい。書き直してこい」

副所長はそのまま背を向けて、別のファイルを取り出す。
島崎は深く頭を下げながら、ぽつりとつぶやいた。

「……ほんと、久瀬はありがたいっすね。
ちゃんと叱ってくれるし、見捨てないし」

そう、ここは“家族みたいな職場”だった。
失敗しても、戻ってこれる場所。
迷っても、誰かがちゃんと道を指してくれる。

それが――久瀬消防署の一番の強みだった。