シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

やがて店の外にサイレンの音が近づき、
扉が開いて救急隊が駆け込んでくる。

「こちらです!」

舞香の声に反応して、救急隊員たちが店内へ入ってくる。
その中にいたのは――朝比奈だった。

「高齢の女性、突然呼吸が荒くなって……
胸を押さえてて、受け答えは少しあります」

「わかりました。対応します。」

朝比奈は患者に向かいながら、隊員たちへ的確に指示を飛ばす。

「ここでは意識レベルの確認のみ実施。バイタルは収容してから。
現場では最低限の処置にして、搬送優先」

「はい!」

「病院は三次救急。池野、事前にルート確認しておいて」

現場に緊張感が走るが、
その中でも隊員たちは無駄のない動きで準備を始める。

舞香はその光景を、黙って見守っていた。
心のどこかで、“あの人が来てくれてよかった”と思っていた。

きびきびと指示を飛ばす姿。
患者に向けるやわらかな声。

朝比奈は、舞香が知っている“海斗さん”であり、
同時に――“現場の人間”でもあった。

その間に立つ存在として、
彼女の心はまたひとつ、確かに揺れ動いていた。