シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

「……っ!」

カップの落ちる音に、舞香はすぐに駆け寄った。
座っていた老婦人が、手を押さえながら前のめりになっている。

「大丈夫ですか?」

返事はあるが、かすれ声で苦しそう。
明らかに呼吸が浅く、顔色も悪い。

(過呼吸? 心臓? それとも何か、詰まった?)

舞香は混乱を押し込めながら、椅子の背を支え、女性の体をそっと横向きにする。

「無理にしゃべらなくていいです。……ゆっくり、呼吸だけ。
あ、店長、救急車……お願いします!」

香奈衣がすぐに電話へ向かう。
舞香は、慌てる気持ちを抑えながら、女性の肩をやさしくさすった。

「今、救急車が来ます。大丈夫ですからね。
少し体を横にして、楽な姿勢になりましょう」

吐息は浅いままだが、意識はある。
舞香は焦らず、ひたすら静かに声をかけ続けた。