シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

消防署のロッカールームで、朝比奈はスマートフォンを手にしたまま、
しばらく画面を見つめていた。

LINEのトーク欄には、
“高島舞香”の名前が、前回のやりとりのまま止まっている。

(……返信はしてくれてた。でも、次は俺からって決めたのに)

「何してんすか、朝比奈さん。ボーッとしちゃって」

後輩隊員の声に肩をすくめながら、朝比奈はスマホをポケットにしまった。

「いや、なんでもない」

(……送っていいだろうか。何も理由がなくても)

理由がほしいわけじゃない。
でも、連絡を取るたびに、「俺ばっかり」って思われるんじゃないか――
そんな小さな不安が、ふと胸をよぎった。

けれど、そのあとで思い直す。

舞香は、あの日――自分から誘ってくれた。
それだけで十分、伝わってることがあるはずだ。

「……よし」

ようやくメッセージの入力欄を開き、
たった一言だけを打ち込んだ。

《今度、また会いませんか?》

送信ボタンを押したあと、
朝比奈の胸の奥で、何かが静かにほどけていくような気がした。