シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

落ち着いた照明と、木の香りがやさしく漂う小さなレストラン。
舞香は窓際の席で、グラスを手に、少しだけ背筋を伸ばして座っていた。

「雰囲気、いいですね。ここ」

朝比奈が言って、少し照れたように笑う。

「昔、香奈衣さんに連れてきてもらったことがあるんです。
静かで、落ち着ける場所だなって思って……」

「舞香さんらしい。優しくて、あったかい」

名前を呼ばれた瞬間、鼓動がわずかに速くなった。
でも、もうその響きを怖がってはいなかった。

「……私、ずっと思ってたんです。
“感謝”の気持ちだけで動いてるって。
でも、最近それだけじゃないって、わかってきて……
それがなんなのか、ようやく言葉にできる気がしてます」

朝比奈はグラスの水をひと口飲んでから、静かに言った。

「俺も同じです。
職業の立場を理由にして、“これ以上近づいちゃいけない”って、何度も思った。
でも、あなたが頑張ってる姿を見てるうちに……
そのままでいてくれるなら、そばにいたいって、思うようになったんです」

ふたりの言葉は、遠回しなのに、まっすぐだった。

「……そばに、いてもいいですか?」

「もちろんです。……ありがとう」

テーブルの上に置かれたふたりの手が、
今度は自然と、そっと重なった。

その重なりは、小さな約束のようにあたたかく――
互いの心を、静かに結んでいた。