シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

「で、ちゃんと寝れたの? 昨日」

閉店後のカウンターで、香奈衣がコップに水を注ぎながら尋ねた。

舞香はスツールに座り、少しだけ頬を赤らめながらうなずいた。

「……うん。来てくれて、安心したのかも。
彼、ずっとそばにいてくれて。何も言わないで、ただ……」

「見守ってくれてた、ってやつね」

香奈衣の言葉に、舞香は静かにうなずいた。

「優しいだけじゃなくて、不思議と……ちゃんと、“気にしてくれてる”ってわかるんだ」

「んで、そろそろ“気づき始めた”ってとこ?」

「……かも、しれない」

それ以上は言えなかったけれど、
香奈衣はもう察しているようだった。

「ならさ、今度はあんたの番じゃない?
向こうから来てくれるの、待ってるだけじゃなくて、
たまには“誘う側”になってみなよ」

「私が、誘う?」

「そう。ごはんでも、コーヒーでも。
“この人と過ごす時間が、心地いい”って思うなら、
ちゃんとその気持ち、動かしてみな」

舞香は、唇をかすかに噛んだ。

まだ怖さもあった。
でも、その言葉は――
扉の前でそっと背中を押してくれるような力があった。

「……やってみようかな」

ぽつりと漏らした声は、
今までよりも、ほんの少しだけ明るく響いていた。