「ちょっと、なんでここにいんの?」
香奈衣が手に持った紙袋をぶら下げたまま眉をひそめると、
その先にいた島崎があたふたと背を向けようとした。
「いやいやいやいや、別に追ってきたとかじゃないですって!
ちょっと偶然通りかかっただけで!」
「その“偶然”が多すぎるんだよ。
あんたGPSでもついてんの?」
「えっ……つけてませんよ!? っていうか、なんか今すごく罪人みたいに言われてません?」
香奈衣はため息をついて、紙袋を手渡した。
「ほら。これ。スタッフの子があんたに忘れてったって」
「え、マジで? ありがとう!」
「で、あんた……さ」
言葉が、少しだけ間を置いた。
「そんなに気にしてくれてるなら、もう少しまともに距離、詰めれば?」
「……まともに?」
「そう。“ふざけて”ばっかじゃ、誰も本音で向き合ってくれない」
島崎はその言葉に、しばらく沈黙していた。
「……そっか。
……俺、香奈衣さんの前だと、つい調子乗るのかも」
「自覚あるなら、なおさらだな」
その言い方はぶっきらぼうだけど、
どこか“見捨ててない”感じがあった。
「……頼っていい? ちゃんと、困った時とか」
香奈衣は一瞬、きょとんとしたあと――
口元を、ちょっとだけほころばせた。
「いいよ。
でも、調子乗ったらまた叱るからね」
「了解です、鬼上司」
「“上司”じゃねーし!」
ふたりのやりとりの音が、夜の路地に心地よく響いていった。



