シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

ピンポーン――

夜の静けさに、インターホンの音が優しく響いた。

玄関ドアを開けると、そこにいたのは、やっぱり――朝比奈だった。
手には何も持っていない。
ただ、心配そうなまなざしだけが真っ直ぐだった。

「……来てくれたんですね」

「うん。無理してない? 本当はすぐ横になった方がいいと思って」

舞香は一瞬だけ迷ったけれど、ゆっくりと頷いた。

「よかったら、入っていってください。
……玄関先じゃ、落ち着かないから」

「ありがとう。……じゃあ、少しだけ」

部屋に入っても、朝比奈はソファの端にそっと腰を下ろすだけだった。
舞香のことを気遣いながら、視線は控えめに床を見ていた。

「……まだちょっと、息が浅いね。
このあいだのときみたいに、口すぼめ呼吸、ゆっくりしてみよう」

彼は隣に座ることもせず、ほんの少し離れた場所から、静かに声をかける。

舞香は、うなずいて深く、ゆっくりと息を吐いた。
不思議とそれだけで、空気が変わった気がした。

「……いつも、こんなふうに優しいんですか?」

「優しいって言われると……照れますけど。
でも、あなたのことになると、つい無理しそうになるんです」

その言葉に、舞香の胸がじんと熱くなる。

「少し、眠ってもいいですか?」

「うん。寝て。そばにいるから」

ふわりとまぶたを閉じた舞香の横で、
朝比奈は黙って彼女の呼吸を見守り続けた。

触れない距離のまま。
けれど、その想いは、静かに傍に寄り添っていた。