シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

自宅に戻ってから、舞香はそのままソファに沈み込んだ。

深く呼吸しようとしても、どこか浅くて、胸の奥に引っかかるような感覚。
焦るほどに身体が言うことをきかなくなっていく。

――大丈夫、大丈夫。いつもすぐ治まるから。

そう思いながら、ゆっくりと口をすぼめて息を吐く。

呼吸リズムを整えるための「口すぼめ呼吸」は、
子どもの頃からの習慣だった。

(薬……持ってる。吸って、落ち着いて……)

手の中の吸入器が頼りで、それでも心細さが抜けなかった。

そのとき、スマートフォンがかすかに震えた。

画面に表示された名前――朝比奈 海斗。

一瞬、呼吸が止まりそうになる。

《大丈夫ですか? さっき、少し苦しそうだったので……》

イベント準備のとき、
「何かあったらすぐ連絡ください」と言われて交換した番号。

それから一度だけ、フェアのお礼のやりとりをしたきりだった。
なのに――彼は、迷いながらも連絡をくれた。

《少しでも辛かったら、すぐ言ってください。
無理なら、すぐ駆けつけます》

その文字列に、ぽたりと涙が落ちた。

「……ほんとに、来てくれるんだ」

そう思えるだけで、
呼吸がほんの少しだけ、深くなった気がした。