シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

「……お前、最近よく顔を出してるらしいな。あのカフェに」

書類をめくりながら、天野副所長がぽつりと呟いた。
朝比奈は手を止めずに答える。

「はい。防災フェアの関係もありましたし……それ以外にも少し」

「“それ以外”が問題だ。
市民との距離感は、隊員として一番気をつけなきゃいけない部分だ」

静かな忠告。けれど、怒気はなかった。

「……わかっています」

「わかってて行動してるなら、なおさら聞く。
――お前にとって、あの子は“誰”なんだ?」

朝比奈は少しだけ目を伏せた。

「まだ……はっきりした言葉にはできません。
でも、放っておけないとは思ってます。ずっと前から」

天野は、書類を閉じて小さく息をついた。

「高島舞香。両親を亡くした事故現場に、俺が初めて入った。
そのときのことは、いまだに忘れられん」

椅子にもたれて天井を見上げながら、言葉を続ける。

「あの歳で、“ありがとう”って言えた子だ。
泣きながらだったが、ちゃんと目を見てな。……強い子だと思った」

ほんの少し、声に滲んだ感情があった。

「……だから俺は、あの子が“誰かに中途半端に扱われる”のが一番怖い。
親でもないのに、口を出すなって言われりゃ、それまでだけどな」

それは、長年消防という現場に立ってきた男の、静かな“親心”だった。

朝比奈は真っすぐに天野を見て、はっきりと口にする。

「中途半端にはしません。俺が向き合うと決めたときは、必ず」

天野はそれを聞いて、ただひとつ、深く頷いた。