シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

春の風が、会場のテントをふわりと揺らす。

公園の広場には、地域住民や親子連れがぽつぽつと集まりはじめていた。
スタッフ同士が打ち合わせを交わす声、マイクテストの音、屋台の鉄板から漂う香ばしい匂い――

その中で、舞香はひとり、ブースの前で台を整えていた。

「コーヒー、保温できてる。
ミールキットは……よし。カードの順番も大丈夫」

小さく確認しながらも、どこか落ち着かない。

人混みのなかに、あの姿を探してしまう。

そして、ふいに背後から聞こえた声。

「準備、順調そうですね」

その声に、胸が反射的に跳ねた。
振り返ると、落ち着いたスーツ姿の朝比奈が立っていた。

「朝比奈さん……おはようございます」

「おはようございます。
カフェのブース、すごく整理されてる。……高島さんらしいですね」

「そう、ですか?」

「はい。丁寧で、優しくて。
……それに、今日も似合ってます」

その最後のひと言に、舞香は思わず目を見開いた。

けれど、朝比奈は特別な調子もなく、
当たり前のように微笑んでいた。

“今日も”――その言い方が、
彼女の中に、小さくあたたかく響いた。