シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

「ちょっとトイレ借りますね〜」

島崎が言い残し、スタッフ用の通路に消えていった。
店内には、舞香と朝比奈だけ。

急に静かになった空間に、
かすかにカップを置く音だけが響いた。

「……お仕事、お忙しいんじゃなかったんですか?」

舞香がぽつりと問いかける。

朝比奈は少し間を置いて、スーツの袖を整えながら答えた。

「まあ、そこそこ。
でも、副所長に“ひとりじゃ不安だろうから顔出せ”って言われて」

「ふふ、優しいですね、副所長さん」

「……あの人なりの、配慮です。
それに、俺も……来たくなかったわけじゃないし」

最後の言葉は、どこか照れたように静かだった。

舞香は、その返しに少しだけ胸が熱くなるのを感じながら、
テーブルのチラシを指先で整えた。

「今からちょっと楽しみなんです。イベントも......色んな方に会えるのも....お店を知ってもらえる良い機会だし.......」

“あなたに”とは言わなかった。
でも、言わずとも伝わるように、声は少しだけやわらかくなっていた。

朝比奈の視線がそっと、彼女の横顔に向く。

「……俺も、です」

たったそれだけの言葉なのに、
ふたりの心が一歩、近づいたような気がした。