シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

「こっちのPOP、文字小さすぎ。目悪い人、読めないよ。やり直し」

閉店後の準備時間。
香奈衣はイベント用の掲示物を容赦なく突き返してきた。

「え、そんなにダメですか?」

「ダメ。見やすさが命。デザインより伝わる方が大事でしょ」

言い方はきついけど、いつのまにか自分も手伝い始めている。
口うるさいのに、黙って背中を支えてくれている。

「……なんか、いつも助けられてばっかりですね、私」

舞香がふと呟くと、香奈衣はマジックを握ったまま、ちらっと視線だけ向けた。

「別に、助けてるつもりはないけど?
そっちが止まりそうなとき、ちょっと背中押してるだけ。
渋滞したらぶつかっちゃうからね。そうなる前に、流しとくの」

その言葉に、舞香は思わず笑った。

「……ありがとうございます」

「なにそれ、らしくない」

口は悪い。でも、本当に心が軽くなる。

この人の言葉に救われた夜が、どれだけあっただろう。

舞香は、心の中でそっとつぶやいた。

――ほんと、感謝してます。香奈衣さん。