シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

閉店後、香奈衣がチラシを広げながら言った。

「ねえ、舞香。防災フェアのブース、あなたに任せたいんだけど」

「え? 私がですか?」

「うん。カフェ代表で出るってことになってるけど、
テーマが“食と備え”でしょ? あなた、そういうの得意じゃん」

舞香は、一瞬だけ躊躇した。
けれど、心のどこかが静かにざわめいたのは――
チラシの隅に書かれた「協力:久瀬消防署」の文字を見つけたからだった。

「……わかりました。やってみます」

その答えに、香奈衣は満足げに頷いた。

「それにさ、ほら。もしかしたら、会えるかもじゃん?」

「え?」

「朝比奈さん。
地域フェアって、消防も大抵広報で出るでしょ?
“習慣”よりも、強いきっかけになるかもよ」

からかうような笑顔に、舞香は視線を逸らした。

――でも、ほんの少しだけ。
その未来を想像する自分がいた。

また、会えるかもしれない。
“仕事”としてじゃなく、“個人”として。

その期待が、胸の奥でひっそりと、けれど確かに息をし始めていた。