シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

閉店後、店内の明かりをひとつずつ落としながら、舞香はカウンターに残ったカップを見つめていた。

朝比奈が座った席。
昨日、あの声で名前を呼ばれた瞬間の感覚が、まだそこに残っている気がして――
そっと、その椅子を整えた。

「……次は、いつ来てくれるかな」

つぶやいた声は、誰にも聞かれないように小さくて。
でも、心の奥では、はっきりと“会いたい”と言っていた。

そのころ、朝比奈もまた、
署のロッカー前で、制服を整えながらふと思っていた。

“ちゃんと、伝えられたらいいのに”

気持ちに名前をつけるには、まだ早いかもしれない。
けれど、もうすでに、ただの客と店員ではなくなっている。

それだけは、ふたりともきっと、どこかで感じていた。

「また来よう。……そのうちじゃなくて、近いうちに」

その言葉が、誰に向けたものか――
自分でももう、わかっていた。