シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

制服のポケットに手を入れたまま、朝比奈は署の廊下を歩いていた。

当直明けの疲れがじんわりと身体に残っている。
けれど、その重さとは別に、胸の奥に残っている感覚があった。

――「舞香さん」

名前を呼んだとき、彼女が一瞬だけ見せた顔。
驚き、照れ、そしてどこかうれしそうで――
あの表情が、頭から離れなかった。

名前を呼ぶなんて、きっと彼女にとっては当たり前のことじゃなかった。
でも、自分の口から自然と出ていた。

“高島さん”ではなく、“舞香さん”。

それは、たぶんもう、自分の中で“ただの市民”じゃないという証拠だった。

「……名前、ちゃんと呼べて、よかったかもしれないな」

小さく漏らした言葉は、誰にも届かないまま、
彼の胸の内に、静かに灯り続けた。